SGLT2阻害薬と尿路感染症について
SGLT2阻害薬というお薬のくくりがあります。
先発品の商品名でいえば、ジャディアンス フォシーガ などです。
これらの薬は、最初は糖尿病を治療するための薬として使われてきました。
そのうち、心不全の治療効果や悪化予防効果があることがわかりました。
更に、腎臓を守る効果が期待できることもわかりました。
糖尿病でも、心臓病でも、腎臓病でも、その効果が期待できる、という点から多くの患者さんのメリットなっていて服用されている方がとても増えています。
尿の中に、体の中の糖分を捨てる、という作用です。
SGLT2阻害薬を服用している方は、尿糖が強陽性となります。
検診で尿検査で異常ですと言われます。
一方で、この作用から良くない状況も起こりえます。
「尿に糖が出るなら、尿路感染症(膀胱炎など)が増えるのでは?」ということです。
実際に尿路感染をきっかけに中止になることもあります。
この状況は日々よく見かけることです。
その時に考えることについてまとめておきます。
まずは、SGLT2阻害薬を服用していると尿路感染症が本当に増えるのか?
結論から言うと、研究全体としては「尿路感染症(UTI)が明らかに増える」とは言い切れません。
たとえばランダム化比較試験をまとめたメタ解析では、SGLT2阻害薬と尿路感染症の発生は統計的に有意な差がない
という結果が報告されています。
Scientific Reports volume 7, Article number: 2824 (2017)
(一方で、性器カンジダなどの性器感染は増えやすいので注意が必要です。)
また、日本の全国規模データベース研究でも、SGLT2阻害薬が日本人糖尿病患者のUTIを増やす明確なデータはない
という報告があります。2023, 70 (11), 1103-1107. doi:10.1507/endocrj.EJ23-0317
ただし、重要な注意点もあります。
「重い尿路感染(腎盂腎炎、敗血症など)」については、まれでも重症例が起こり得ます。
つまり、日常でよくある膀胱炎などの尿路感染症が激増するとは限らない一方で
「起きたときに重くならないよう、早めに気づく・適切に対応する」が大事
という理解が重要です。
最大の迷いは次の点です。
尿路感染症になったらSGLT2阻害薬は中止すべきかどうか?
重症化する可能性があるから中止、はわかります。
ただ、もともとSGLT2阻害薬を内服しよう!となった当初の目的は
>糖尿病をよくしよう!
>心臓病 心不全を治療しよう 再発を防ごう!
>腎臓を守ろう!
でした。
その目的を捨ててまで膀胱炎になったからという理由でその薬を中止するのはバランスとしてどうなのか?
ということが考えるべき重要な点です。
昨年10月にその研究が報告されました。
European Heart Journal (2025) 00, 1–13
香港の大規模医療データ(2型糖尿病でSGLT2阻害薬を使っていた約6.1万人)を解析しました。
尿路感染発症後に「薬を中止した人」と「継続した人」を比べました。
中止した人は膀胱炎の再発がなくなり、ハッピーだったか?
継続した人たちは、膀胱炎を繰り返して大変だったか?
心臓病の状況はどうだったか?
この研究の注目点は3つあると考えます。
1つ目
尿路感染症を起こした人は、その後の心血管・腎イベントが多い
尿路感染を起こした群は、起こしていない群に比べて、心血管予後や腎複合予後のリスクが高い、という結果でした。
ここは誤解してほしくないのですが
「SGLT2阻害薬が尿路感染症を起こして心腎トラブルを増やした」と断定する話ではありません。
論文の解釈では、尿路感染症そのものが体の弱り具合や、合併症リスクを反映するサインになっている可能性もある、と考えています。
筋力の状況とか日常の活動度、入浴の頻度や生活状況が尿路感染症のなりやすさに反映している、とも言えるかもしれません。
2つ目
尿路感染症をきっかけに中止する人は多い(約3人に1人)
尿路感染症発症後に3人に1人はSGLT2阻害薬を中止していました。
この薬のせいで、トイレに行っても行ってもまた行きたくなる。
煩わしいわ!という気持ちからでしょうか。
心不全を予防する、とか腎臓を守る、と言われても日常ではそれを実感することはないです。
そのため、今の苦痛と将来の予防を実感として天秤にかけたら、「もう飲むの嫌」となっても不思議はありません。
3つ目
SGLT2阻害薬の内服中止は、心腎の予後が悪い方向に関連していた。
しかも尿路感染症の再発は減らなかった。
飲むの止めたのに。
尿路感染症後に中止した人は、継続した人に比べて、心血管・腎アウトカムのリスクが高い
(いずれもHR 1.35程度)
つまり、心不全になるリスク、腎臓が悪化するリスクが30%高くなる、ということです。
服用していれば30%程度リスクを減らせる、という数字と合致するように見えます。
一方で、尿路感染症の再発リスクは「差がはっきりしない(同程度)」という結果でした。
飲むの止めたのに。
この研究だけで「絶対に止めないようにしましょう」とまでは言えません
(観察研究なので、重症な人ほど中止されやすい等の影響が残る可能性があります)。
それでも臨床感覚としては、少なくとも
「膀胱炎になった=反射的にSGLT2阻害薬を永久に中止」
では、せっかくの心臓・腎臓のメリットを失ってしまうかもしれない、ということを考える必要があります。
それではどう考えればいいでしょうか。
基本的には軽い膀胱炎レベルで、全身状態が安定しているなら、「治療しながら継続」をまず検討します。
>水分を多めに取りましょうね。
>トイレはこまめに。我慢しない
>便秘をととのえる(骨盤内の圧力が上がると尿もれにつながります)
>トイレは可能ならウオシュレットがいいでしょう。
>前立腺肥大があるときには、泌尿器科で治療を考えてもらいましょう
>尿もれ対策で骨盤底筋群運動はとてもいいですよ
などのお話をしています。
当院では毎月ヨガ教室で骨盤底筋群トレーニング指導をしています。
自宅で、自分でできる、というのはとても大事です。
覚えて帰ってもらうことにしています。
一方で、次の状況ではいったん中断(休薬)を検討します。
発熱や腰、背中が痛い(腎盂腎炎かも)
ぐったりして水分が取れない(脱水かも)
尿路感染が重症
こうした重症尿路感染症(腎盂腎炎や敗血症)の治療中は、SGLT2阻害薬を一時中断する推奨がガイドラインにあります。
重要なのは
「膀胱炎=永久中止」ではなく
「重症度と全身状態で“いったん休む/続ける/再開する”を決める」
という判断をしておき、経過で決めていく、という考え方と思います。
メリットとデメリットのバランスを見極めること。
あるいは尿路感染症はそれ自体が、体の機能が低下してきているサインでは?という目線を持つことが大事かなと思っています。
また、先程の研究では、
「中止しても再発尿路感染症が減りにくい一方で、心腎の面では不利になり得る」
ことを示唆しています。
すぐ受診してほしいサインについてを最後に。
38度以上の発熱
背中・わき腹の痛み、吐き気
血尿がでる、尿が出にくい
強いだるさ、意識がぼんやりする
腎盂腎炎や重症化のサインになり得ます。
いつでも尿検査やエコー、CT検査が可能です。
ご相談ください。
