下の血圧だけが高いときに読む話
「上の血圧はそこまで高くないのに、下の血圧だけ高い」
というご相談をいただくことは多いです。
上の血圧はいわゆる収縮期血圧。
下は、拡張期血圧、と呼んでいます。
収縮期血圧は、心臓が「収縮」して全身に血液を「送り出す」瞬間の圧力です。
心臓の「力強さ」や「ポンプ機能」、「大動脈の柔軟性」に影響を受けます。
動脈硬化が進むと収縮期血圧は高くなりがちです。
拡張期血圧は?
心臓が拡張して、心臓の中に血液を溜め込んでいる期間での大動脈の圧力です。
これは、全身の細い血管の抵抗の程度、血管の弾力性、血液の粘性(血液のドロドロ具合)に影響を受けます。
拡張期血圧が高いと腎臓病や末梢動脈、心不全になりやすいとわかっています。
上の血圧は正常。
下の血圧だけが高い。
このような状態のときに、治療をしたほうがいいのかどうか。
上がいいからよい。
あるいは。
下が高いから良くない。
色んな意見がありました。
今日はこの状態が本当に治療対象になるのか、最新の研究結果も踏まえての話です。
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先に結論から。
結論は、下の血圧だけが高いときにも治療するメリットがある。
ただし、注意して治療するのが大事、です。
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孤立性拡張期高血圧という考え方について
上の血圧(収縮期血圧)が正常範囲なのに、下の血圧(拡張期血圧)だけが高い状態を、孤立性拡張期高血圧(IDH)と呼びます。
なお「正常」「高い」の区切りは、ガイドラインや場面(診察室か家庭か)で少し変わります。
日本では高血圧の診断基準として「上が140以上、下が90以上」が基本です。
IDHの治療は長年、議論の的でした。
主な理由は次の2つです。
1つ目は、薬を使うと上の血圧まで下がって、ふらつきや立ちくらみが増えるのではないか、という心配。
2つ目は、下の血圧を下げすぎると心臓(冠動脈)への血流が減ってしまい、かえって心筋梗塞などのリスクが上がるのではないか、という心配です。
(いわゆるJカーブ現象と呼ばれます)
最新の研究で分かったこと
2025年にEuropean Heart Journalに掲載された大規模研究(個人データを集めたメタ解析)では、51試験、35万8千人以上のデータを用いて、IDHの人でも降圧治療の効果が検討されました。
https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehaf962
結果はシンプルで、降圧治療による心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスク低下は
IDHの人でも
IDHでない人でも
「同程度」と考えられる、という内容でした。
また、もともとの拡張期血圧が低めの層(60mmHg未満の範囲まで)でも、治療効果が目に見えて弱まる、という所見は示されませんでした。
下の血圧が下がりすぎたとて、悪いことはなかった、ということです。
ここで大事なのは、
「下だけ高いから軽症」
「上が正常だから放置でよい」
と決めつけないことです。
将来の心筋梗塞や脳卒中を防ぐという観点では、IDHでも治療を検討する価値が十分あります。
・家庭血圧も含めて「下の血圧が高い状態が続く」場合は、まず原因とリスクを評価する
・生活習慣の改善で下がる余地が大きいので、最初は生活面を丁寧に整える
・糖尿病、脂質異常症、喫煙、腎臓病、家族歴など「心血管リスクが高い」方は、薬物治療も前向きに検討する
・薬を始める場合は「上を下げすぎない」「下を下げすぎない」を意識して、少量から安全に調整する
少量から内服薬を始めると、中には内服始めたのに全然下がらない、効かない、意味ないと言われる方もいます。
それは慎重に治療を始めたから、ということと解釈されるのが良く、更に調整があるのだなと考えてもらうのが良いです。
生活習慣でできること
下の血圧は、血管の抵抗(血管のしなやかさや緊張)とも関係が深いので、生活習慣の影響を強く受けます。
・減塩(外食、麺類の汁、漬物、加工食品の見直し)
・適正体重の維持
・有酸素運動(速歩など)
・節酒、禁煙
・睡眠の質と量の改善
これだけで5から10mmHg下がる方も珍しくありません。
内服薬の力を使う
「下の血圧だけを選んで下げる薬」はありません。
多くの降圧薬は上も下も一緒に下がります。
だからこそIDHでは
少量から始めて、家庭血圧を見ながら微調整するのが基本です。
一般的に使われる薬は次のようなタイプです。
カルシウム拮抗薬
血管を広げて下の血圧を下げやすい薬です。足のむくみ、ほてり、頭痛などが出ることがあります。
末梢血管が拡張するのは、特に細い血管がびっしりあるお顔で拡張がわかりやすいです。
顔がほてる、のはそのためです。
ARB、ACE阻害薬
血管や腎臓を守る作用が期待でき、長期管理で使いやすい薬です。
拡張期血圧が高い方は特に腎臓機能が障害されやすいので、ARBなどはとても有用です。
体質によってはカリウムが上がりやすい場合があります。
少量の利尿薬
塩分と水分の影響が強い方(いわゆる塩分感受性が高い方)で効果的なことがあります。
尿酸や電解質のチェックが必要です。
必要に応じて、年齢、脈拍、合併症(狭心症、心不全、不整脈など)に合わせて薬の組み立ては変わります。
家庭血圧測定が非常に重要です。
診察室だけだと、緊張で高く出たり(白衣高血圧)、逆に家庭では高いのに病院では正常だったり(仮面高血圧)します。
日本高血圧学会のガイドラインでも家庭血圧の重要性が強調されています。
おすすめは
朝(起床後、トイレ後、朝食前、服薬前)
に、座って2−3分落ち着いてから測ること。
できれば1回だけでなく2回測って記録すると判断が安定します。
上の血圧が正常でも、下の血圧だけが高いIDHは「放置してよい」とは限りません。
最新の大規模研究では、IDHでも降圧治療は他の高血圧と同程度に心血管イベント予防に役立つ可能性が示されました。
一方で、治療は「上や下を下げすぎない」配慮が必要で、家庭血圧と心血管リスクを見ながら、その人に合った強さで進めることが大切です。
「下だけ高いと言われた」
「家庭血圧で下が80台後半から90以上が続く」
など気になる方は、遠慮なくご相談ください。
まずは、生活習慣について考えてみる事が大事です。
