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冠動脈石灰化について

健康な血管に、動脈硬化が起こるとプラーク(脂のかたまり)が発生します。

これは、血管の血流低下やつまりにより、その先の臓器、組織へ十分な血液が行き渡らずトラブルを起こします。

血液が足りない状態を虚血(きょけつ)といい、完全に詰まり臓器が壊死(えし)した状態を梗塞と表現することもあります。

では、この虚血、や梗塞が起こる可能性を予想することができるか? ということについてご説明致します。

いわゆる生活習慣病とは高血圧、脂質代謝異常(高コレステロール血症)、糖尿病が代表的な3つです。

これらを何故治療するかといえば、健康に長生きするため、というです。

具体的には心筋梗塞、脳梗塞にならないように、あるいは繰り返さないようにということも言えます。

 血管のつまりは、アブラの塊なので、特にコレステロールの中でも悪玉といわれているLDL-cを低下させる治療は、このプラーク自体を安定化させること、増加を防ぐ効果があることが確認されています。

 

コレステロールが高いから、スタチン(脂質低下薬)を使うべきか? という事を考えます。

血管が詰まる可能性が高ければ、薬物加療の力も使って、しっかり治療したほうがよいでしょう。

逆に詰まる可能性が低ければ、薬ではなく食事管理運動管理を徹底して経過を見るのもいいでしょう。

この2つの考え方で重要な点は、血管がつまる可能性をどうやって評価するのか? ということに尽きます。

 

これに対して、アメリカの循環器学会ACC/AHAから2019年に循環器疾患一次予防ガイドラインが公表されています。

一次予防とは、心筋梗塞にならないように予防することであり、そのための方法を記載した文章群になります。

これによると、動脈硬化性疾患の10年発症リスクが7.5-20%と推定された成人男性(40-75歳)では、スタチンによるコレステロール管理などの予防的治療の適応を検討するための補助検査として、冠動脈石灰化をCTを用いて評価するのは妥当である、としています。

 

つまり、1. CTスキャン検査で、冠動脈石灰化を評価し、冠動脈に石灰化があれば、動脈硬化がある、と言えるということ。

2. その石灰化はスコア化されていて、どれくらいのスコアだと将来の心筋梗塞の発症リスクが見積もることができる、ということ。

3. 石灰化スコアが高ければ、それに備えて薬物加療を強化することが有効であること。

4. 石灰化スコアが 0(ゼロ)ならば、治療の強度を下げることが可能であること。

 

こういったことが記載されています。

この方法は、特に中等度リスクの方で有効な戦略である、と言えます。

 

中等度リスクの評価について

 10年間のASCVD発症リスク

  • アメリカ心臓協会(AHA)とアメリカ心臓病学会(ACC)のガイドラインでは、「Pooled Cohort Equations(PCE)」というリスク計算式を使用して、40歳から75歳の成人における10年間のASCVD発症リスクを評価します。

  • この計算式に基づくリスクが7.5%〜20%の範囲内であれば、中等度リスクと見なされます​

 古典的なリスク要因

中等度リスクの方は、以下の危険因子をいくつか持っている可能性が高いです。

  • 年齢: 男性では45歳以上、女性では55歳以上。

  • 高血圧: 血圧が130/80 mmHg以上。

  • 喫煙: 現在喫煙している、もしくは最近まで喫煙していた。

  • 糖尿病: 2型糖尿病を患っている。

  • 高コレステロール: LDLコレステロールが高い(≥160 mg/dL)

  • 家族歴: 若年性の心血管疾患の家族歴がある(男性55歳以下、女性65歳以下で発症した心筋梗塞や脳梗塞など)

  • 肥満またはメタボリックシンドローム: BMIが30以上。

リスク増強因子

中等度リスクの方は、リスク増強因子が存在することがよくあります。

これらは、リスク計算に加えて考慮されるべき要素で、次のようなものがあります。

  • 慢性炎症性疾患(例: 関節リウマチ、潰瘍性大腸炎 クローン病など)
  • 高リポ蛋白  LP(a)値や  高感度CRP(C反応性タンパク質)の上昇
  • 妊娠関連の合併症(例: 子癇前症)
  • 早期閉経(40歳未満)
 
このような中等度リスクの方で、更に予防的治療が必要かどうかの判断において、冠動脈カルシウムスコアCACの測定を行うことが非常に有用です。
 
CACが高ければ治療を強化する必要があります。
 
CACスコア 0 なら治療を見合わせて、経過観察をしていくことも可能であると、AHA/ACCのガイドラインで述べられています。
 
 

冠動脈石灰化スコアの見方

0 ゼロ
異常ありません。
心疾患のリスクは0ではありません。
動脈硬化のリスク(糖尿病、高血圧、脂質代謝異常症、喫煙、心疾患の家族歴)がある方は生活習慣の改善は引き続き必要です。
 
〜65未満
 
軽度リスクです。
現状冠動脈の病気を合併している可能性は低いと考えられます。
しかし心疾患のリスクが0ではありませんので、動脈硬化のリスク(糖尿病、高血圧、高脂血症、喫煙、心疾患の家族歴)がある方は、動脈硬化の進展予防の為にも生活習慣の改善に努めましょう。
 
〜400未満
 
中等度リスクです。
欧米人では冠動脈石灰化スコアが、ある程度高値(>100)であれば、冠動脈に狭窄がある確率が高く、さらに将来の心臓病での死亡率が高いというデータが多くあります。
狭心症症状(動くと胸部に痛み、休むと楽になる、息が切れる、など)がある場合には、心エコー検査などの検査結果と総合して判断する必要があります。
保険診療で循環器内科を受診いただき、必要に応じて冠動脈造影CTなどを検討する必要があります。
 
 
400以上
 
高度リスクです。
動脈硬化が強く、心疾患を起こす危険性が高いと考えられます。
症状の有無にかかわらず循環器内科の受診をお勧めいたします。
 
 
戸頃循環器内科クリニックでは、この冠動脈石灰化評価 CAC測定を自費検査で行います。

CAC測定では、造影剤は用いません。
 
心臓ドックで行い、頸動脈エコーと併せて、動脈硬化評価を適正に行い、現在の治療の強度調整が可能です。
 
高血圧やコレステロール、糖尿病の治療を行っている方には是非おすすめする検査になっております。
 
30分程度で検査でき、点滴も不要です。

痛みはありません。
 
くわしくは、クリニックでご説明致します。
 

冠動脈石灰化のメカニズムに関する説明は、これらの文献に詳しい説明があります。

  1. Arnett DK, et al. (2019). 2019 ACC/AHA Guideline on the Primary Prevention of Cardiovascular Disease
    このガイドラインでは、冠動脈カルシウムスコア(CAC)の測定と心血管リスクの評価に関する情報が提供されています。
    冠動脈石灰化がアテローム性動脈硬化と関連している点についても言及されています​。

  2. Raggi P, et al. (2020). Pathophysiology of Coronary Artery Calcification.
    このレビューでは、冠動脈石灰化の病態生理学に関する詳細な説明があり、カルシウム沈着が動脈硬化の進行過程でどのようにして起こるかを解説しています。

  3. Gongora MC, et al. (2008). Cellular and molecular mechanisms of vascular calcification.
    この論文は、血管石灰化の細胞および分子メカニズムを詳細に説明しており、血管平滑筋細胞の骨細胞への変化や、カルシウム沈着に関わる分子経路について記述しています。

  4. Nakahara T, et al. (2017). Coronary Artery CalcificationFrom Mechanism to Molecular Imaging
    日本人の先生が書かれた総説です。

    血管石灰化はその位置や密度、広がりによって、動脈の柔軟性を損ない、硬い構造へと変化させます。また、石灰化は薄い線維性被膜を持つ病変(ファイブロアテローマ)の被膜に影響を与え、緊張力を変化させることで、病変が破裂しやすくなる可能性があります。心筋梗塞発症のしやすさ、とも繋がります。この過程には、脂質代謝異常、持続的な炎症、大きな壊死性コア、糖尿病などの要因が関与しています。

    血管細胞は軟骨性あるいは骨芽細胞への分化を経て石灰化を引き起こし、膜状骨の石灰化や軟骨内骨化を促進します。石灰化を引き起こす血管細胞は、主に局所の平滑筋細胞や血液中の造血幹細胞から生じ、特に内膜石灰化において重要です。壊死コアの存在は石灰化の起点として機能します。

    冠動脈の石灰化は冠動脈硬化症のマーカーであり、密な石灰化(>400 HU)は安定したプラークと関連していますが、微小石灰化(またはスポット状石灰化)は不安定なプラークと関連していることが多いです。近年の研究では、微小石灰化が線維性被膜に存在する場合、その局所的な組織ストレスが増加し、プラークの不安定化を引き起こす可能性があることが示唆されています。

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