HbA1cが高くなったときに読む話
糖尿病の診療でよく使われる指標「HbA1c」
ヘモグロビン エーワンシー
あるいはそのまま エーワンシー と呼んでいます。
これは、ここ2−3か月の平均的な血糖の状態を示しています。
糖尿病のコントロールの目安として大切な数字です。
でも、このHbA1cが
「なんとなく上がってきた」
「下がっていたのにまた上がった」
というとき、何が起きているのでしょうか?
HbA1cの上がり方に6つのパターンがあります。
それぞれの背景にある可能性や、どうすれば良いかを一緒に考えてみたいと思います。
怖がる必要はありません。
数字はあくまでサイン(合図)です。
その意味を読み解くことで、次の一歩が見えてきます。
① 急激に上がってきたとき
考えられる原因
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がんなどの重大な病気(例:膵臓がん)
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ステロイド治療の開始
ステロイドの外用薬や点鼻薬では影響は最小です。
内服ステロイド(プレドニン・プレドニゾロンなど)は影響を考える必要があります。 -
急な生活環境の変化(転職・引っ越し・介護・災害など)
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1型糖尿病(インスリン分泌が急に低下)
対策
まずは早急に原因を見つけることが大切です。
血液検査や画像検査を行い、なにか見落としている重要なことがないかをチェックします。
生活の変化が背景にある場合は、少しでも生活リズムを整える工夫が必要になります。
生活の変化は、患者さん自身は仕方がないことですが、その点を意識して変えられるかどうか、対処できるかどうかが重要ですので、一緒に何が原因か考えます。
② 上がったり下がったり、変動が大きいとき
考えられる原因
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食事・運動のリズムが不安定
夜勤仕事とか、家族の帰宅の時間に合わせて食事時間が前後しやすいとか。
同居人や仕事などの波に流されるときなど。 -
薬の飲み忘れ・インスリンの打ち忘れ
飲むのを忘れたり、飲んだことを忘れてまた薬を飲んでみたり。
低血糖は非常に危険です。 -
睡眠不足・ストレス・不規則な勤務(夜勤など)
現代社会はストレスとセットなので、どうストレスを発散するかはとても大事なことです。
「こんなに忙しいなんて、逆に楽しいわ」と声に出すと、テンションが上ります。
対策
「完璧」を目指すよりも「安定」を目指すこと。
一週間単位での生活リズムを見直し、毎日できる小さな習慣から整えていきましょう。
できたことをできた!と考えること。
一歩一歩進んでいくと安定します。
服薬状況も一緒に確認します。
薬の残りがバラバラなときには、いつか飲み忘れたのかもしれません。
一旦振り返る必要があります。
内服薬を朝夕、朝昼夕、などの一日2回、3回という処方内容のときには、一日一回でよい内服薬へ変更できないか常に考えています。
③ ゆっくりゆっくり、でも確実に上がっているとき
考えられる原因
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知らず知らずのうちの体重増加
「見たくない現実」と表現する患者さんもいますが、今どこにいるのか把握すれば向かう先もはっきりしやすいです。
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少しずつ運動量が減っている
日本の四季はうつろいます。
気温も変動し、6月からは雨も増えます。
天気が悪くて散歩が減った→暑くて散歩が減った
どうやって運動量を減らないようにしましょうか、と考えることが大事です。
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インスリンの効きが弱くなってきている
インスリン抵抗性、とは筋肉量が減ったり質が低下することでも起こります。
筋トレと有酸素運動を一日おきに交互に行うことで、インスリンの効きが復活します。 - ご飯がますます美味しい
対策
体重や食事の内容を一緒に確認してみましょう。
毎回検査のたびにHbA1c 0.1%ずつの上昇も、放置すると将来に大きく影響します。
早めに薬の見直しや、食事療法・運動療法の再スタートです。
いつだって、その日からやり直せます。
またやろう、より、今日やろう、も声に出してみるとまた気持ちが前向きになります。
④ 季節によって上がったり下がったりするタイプ
考えられる原因
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夏:暑くて食欲が落ちる。でもアイスやジュースでしのぐ。
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冬:運動不足・食べすぎ(お正月・鍋など)・もち。
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花粉症やアレルギーで運動がしづらくなる時期
外出るとくしゃみ鼻水鼻詰まりは苦行になってしまいます。
そんなときには症状を和らげる治療とともに運動継続です。
糖尿病の治療をしつつ、花粉症に負けない体を作ることを意識します。
対策
「季節の波」を理解して、先回りした対策が重要です。
去年と同じことを繰り返さない、が大事です。
たとえば冬には軽い筋トレやウォーキングの時間を増やす、
夏には水分補給の仕方を工夫するなど、リズムを意識した生活を。
スポーツドリンクで脱水回避をしようして、たいてい9月にものすごいHbA1cがあがっている方を毎年お見かけします。
お水。お茶。がいいと思います。
⑤ ずっと高いままのとき
考えられる原因
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治療内容が合っていない
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実は別のタイプの糖尿病(1型糖尿病である可能性はつねに考えます。)
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合併症が進行している(腎機能、肝機能など)
対策
診断自体の見直しや、より詳しい検査が必要かもしれません。
「ずっと努力しているのに下がらない」という方は、あきらめずに一緒に次のステップを考えていきましょう。
もっと適した生活習慣、食事管理、運動量や方法、薬の調整があります。
⑥ 一度改善したけれど、また上がってきたとき
考えられる原因
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薬を減らしたあとに反動が出ている
「薬が減るということは病気が良くなるということ」と思いたいです。 -
よくなったから安心してしまった
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心理的なストレスや環境の変化
対策
改善後は“維持”のフェーズへ。
ここでは「リバウンドしないコツ」を一緒に学んでいきます。
食事内容・運動習慣の再確認、薬の量の再調整も行います。
HbA1cと体重の関係にも注目します
HbA1cが悪化したとき、体重が増えているか、変わらないか、減っているかでも、原因のヒントが見つかります。
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体重も増えている → 生活習慣や薬の量の見直し
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体重は変わらないのにHbA1cだけ上がる → 他の病気のサインかも
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体重が減ってHbA1cも下がった → 成功のサイン!でも注意深く観察を
日頃からの血圧と体重の測定は非常に重要です。
HbA1cは「あなたを守るためのサイン」
HbA1cが上がってしまったとき、落ち込まないでください。
数字には、必ず「理由」があり、そして「対策」があります。
しっかり見極めて対処すれば、不安になる必要はありません。
当院でできることは、数字の奥にある普段の生活の状況、変化や心の動き、体の変化を一緒に見つけることです。
安心して、気になることはなんでもご相談ください。
戸頃循環器内科クリニックは、皆さんの「これから」を一緒に支えていきます。