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少し先の肥満治療薬研究

[2025.06.25]

「痩せる」だけでは足りない。

高血圧、脂質異常症、糖尿病、心不全。

こうした慢性疾患の背景には、共通して「肥満」が存在することが少なくありません。

そのため、私たち循環器内科医にとって、肥満の治療は病気の根本にアプローチする大切な医療です。

 

しかし、体重を減らすというのは簡単なことではありません。

食事、運動、生活習慣、心理的ストレス、環境要因――あらゆる要素が複雑に絡み合っています。

 

 

運動は大事だとわかっていても、散歩しようとしたら体温を超すような気温。

あるは出かけようとしたら土砂降り。

今日はつかれたからまた明日にしよう。

 

習慣になるまえには様々な理由で、またあした、という気持ちにつながることがあります。

 

今を変えていこう、と思ったときには様々なサポート方法を用います。

 

今まで多くの方へ総合的な肥満対策に取り組んできました。

さらにもっといい手があるのかを考え続けています。

 

 

 

月1回の注射で、脂肪だけを選んで減らす治療

6/23に、マリタイド(MariTide)という新しい薬剤の有効性について研究論文が出ました。

月1回の注射で体脂肪を効果的に減少させる可能性がある、という報告です。

従来の週1回の注射薬(セマグルチドやチルゼパチド)に比べて投与頻度が少なく、体重減少効果も10〜15%と高く、筋肉量の減少は最小限に抑えられると報告されています。

しかも、この薬は糖尿病を合併している人でも有効性が高く、将来的には「食事制限や運動だけでは限界がある」という人の選択肢の一つになり得ます。

対象者は

 

  • 肥満群(BMI ≥30、またはBMI ≥27で合併症あり)

  • 肥満+2型糖尿病群(BMI ≥27、HbA1c 7〜10%


という方で52週間後の体重変化率、体脂肪量、ウエスト周囲径 血圧、脂質などを見ています。

結果は、プラセボ群に比較して、体重が15%程度減った、ということです。

体組成比較で見ると

 

  • 脂肪量減少(肥満群):−26.2%〜−36.8%

  • 筋肉量減少:−8.6%〜−11.6%

つまり、筋量減少より脂肪減少の方が大きいということです。

体重が落ちたあとも、筋肉量が残る傾向にある、と言えます。

ほかもだいたい良くなった、ということでもあります。

 

研究自体は Phase2 

つまり、薬は効く、という確認ができただけの段階です。

 

次はどの容量が有効で安全か、という量の設定の問題が出てきます。

さらに、どの投与量で維持するのが最適か? も重要になってきます。

 

効果があってもリバウンドの可能性や、長期使用での副作用の蓄積も検討する必要があります。

投与間隔を更に伸ばすことも考えられます。

 

月一回ではこの結果だけれど、2ヶ月おきではどうか、とか、少しずつ増やしたり減らしたりするのはどうか?など、ですね。

 

どれくらいの投与期間を維持するのが良いのか?というもの重要な問題となります。

次のphase 3 ではこういったことがおそらく検討されていくものと想像します。

 

これが市販されて日本で使えるようになるのはおそらく5年以上先のような気もします。

市販までたどり着かない可能性もあります。

新薬研究はほとんどそんな感じです。

 

 

肥満治療、ダイエットでは最大の課題は

最初の体重減少をいかに維持するか?

です。

 

リバウンドを最小にし安全性を確保しすること、ということです。

 

 

本質的な改善のために

たとえ体重が一時的に減ったとしても、リバウンドを防ぎ、長期的に健康な状態を維持するには「行動変容」が不可欠です。

健康的に体重減量しよう、というときには、今までと同じような生活だと、今と同じ体重、ということです。

 

肥満治療において最も重要なことは、以下の要素をバランスよく組み合わせていくことです。

  • 食事管理:無理な制限ではなく、長く続けられる食習慣の確立

    短期間は頑張れる。
    でも、それを長く続けていくのは困難が伴います。
    そもそも頑張っている時点で、なかなかに難しい面があります。

  • 運動習慣:単なるカロリー消費ではなく、筋力を維持・強化する運動の取り入れ

    運動すると楽しい、あー気持ちよかったー と自然と言えるようになるまでは苦行に感じることも。

  • 心理的サポート:やる気の波、自己否定感、周囲の理解不足などに対するケア

    モチベーションが折れるときには、ぽきっと音がする、と聞いたことがあります。
    そうでなくとも、いい気分の日とそうでもない日があります。
    そうでもない日には無理しない、というは大事です。
    うまくいってる、と感じるようなサポートも重要です。

  • 継続支援:体重計の数値ではなく、日々の生活の中に変化を感じられるようなサポート

    体重は変わらないけれど、脂肪は減って筋肉は増えている、ということもあります。
    しっかり運動しての効果なら、体重の変動がなくとも良い変化です。
    それはちゃんと調べればわかることでもあります。

薬はあくまで「きっかけ」や「加速装置」であり、体と心を根本的に変えるのは、日々の選択とその継続です。

 

きっかけは、やせよう、だった

好きな服が着られなくなった。

かっこよく見られたい。

あの水着を着たい。

様々な理由があります。

 

でもそれにより生活の質が高まり、病気を予防し、あるいは血圧や血糖、脂質が改善することもあります。

当院に通われている方で「自分を取り戻した」と言われた方がいました。

自分らしい日常、というものがあるんだろうなと思いました。

 

医学は進歩し続けています。

それを安全性を大前提に、かつ有効に活かすように医療は進んでいます。

 

当院でも新しいデータを見て、鵜呑みにせず、これは本当に良いのだろうか、という吟味をしながら少しでも来院される方のお役に立てるように外来を行っております。

 

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