なによりいつを考える食事習慣
時間制限食(Time-Restricted Eating, TRE)という考え方があります。
「いつ食べるか」を見直すことで、心臓病や高血圧、糖尿病などの生活習慣病の予防はもちろん、美容やアンチエイジングにも良い影響があるという研究がいろいろと発表されています。
https://doi.org/10.1146/annurev-nutr-082018-124320
食事のタイミングが健康を左右する
私たちの体には概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれる体内時計があり、血圧・血糖・ホルモン分泌・代謝などが24時間周期で変動しています。
朝は血圧が上がり、夜には血圧が下がる、というような現象のことです。
ホルモンが体内で分泌される量が朝には多く、夜には少なくなる、ということだったりします。
このリズムと合わない生活は悪影響があるかもしれない、という話です。
リズムにあわない時間帯に食事をすると内臓の代謝が追いつかず、脂肪として蓄積されやすくなったり、血糖値が高止まりしたりすることがわかっています。
特に夕食や夜食が遅くなると、心臓や血管に負担がかかりやすくなるため、見過ごせないリスクになります。
時間制限食とは?
時間制限食(TRE)とは、1日の食事を8~12時間以内の一定時間帯にまとめる習慣のことです。
たとえば、朝8時に朝食をとったら、夜8時までにはすべての食事を終えるようにします。
この食事スタイルを16週間続けた実験では、
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体重が減る(平均3kg以上)
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血圧・血糖値が安定する
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睡眠の質が改善する
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気力・集中力が高まる
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LDLコレステロールや中性脂肪が低下する
などの効果が、動物実験だけでなくヒトでも確認されています。
36週間経ってもその効果が維持されていた、ということでした。
高血圧や脂質異常症、心不全予防において、「食べるタイミング」を調整するのは有効と思います。
時間制限食でいくつかの心血管リスク低減効果が期待できます。
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夜遅い時間のインスリン分泌はメラトニンの影響で弱まり、高血糖を招く→動脈硬化の原因に
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食後高脂血症が長時間続くと、血管内皮にダメージ→心筋梗塞や脳梗塞リスクが上昇
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一定の時間に食事をとると、肝臓・脂肪・血管の時計遺伝子が整い、代謝がスムーズになる
このように、時間制限食は単なるダイエット法ではなく、生活習慣病そのものを防ぐ時間の医学とも言えるのです。
食事内容が同じでも、いつ食べるかで結果が変わるのなら、試す価値は十分にあります。
減塩と時刻の関係
同じ1日12gの食塩摂取であっても、夕食時に塩分が多い食事内容では、朝昼に塩分が多いときに比べると血圧が上がりにくい、という報告もあります。
Effects of timing of salt intake to 24-hour blood pressure and its circadian rhythm
血圧を上げるレニンやアンジオテンシン、アルドステロンというホルモンが、朝から昼に高く、夕方に低いことがその理由であると説明されています。
アルドステロン分泌が少ない夕方であれば、少し多めに塩分をとっても、さほど血圧は上がらないということです。
降圧剤であるアンギオテンシン阻害薬や抗アルドステロン薬を朝服用することが多いのもこれを反映しています。
血圧管理では一日で塩分何グラム、という指導がありますが、特に朝昼は塩分摂取に注意、といえます。
美容・アンチエイジングへの効果
最新の動物時間制限食を行うことで皮膚の酸化ストレスが減り、ミトコンドリアの機能が改善することが確認されています。
また、腸内環境や睡眠の質が整うことで、美容面のメリットも期待できます。
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肌のくすみ改善、ハリの回復
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皮脂のバランス改善 → ニキビ予防
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抗酸化物質の生成が増える → 老化の抑制
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成長ホルモンやコラーゲン合成の促進
食事時間を整える。
シンプルで効果的な話です。
まずはここから
いきなり8時間の食事時間制限を始めるのは難しいかもしれません。
でも、まず手始めには
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朝食は毎日同じ時間にとる(朝7~8時)
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夜の食事は20時までに終了する
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間食(特に夜間の甘い物)は避ける
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毎日同じ時間帯で食事をとることを意識する
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食事時間をアプリなどで記録してみる
健康も美容も継続的な生活習慣の積み重ねが大事と思います。
患者さんの中には、「何を食べたらいいですか?」というご相談が多いのです。
当院では栄養士さんから色々指導をしていただいています。
手始めに「いつ食べるか」にもぜひ注目していただきたいと思います。
時間制限食は、薬に頼らず自然に代謝を整える「自分自身のリズムを味方につける治療法」と言えるかもしれません。