心をすり減らすもの
心のメンテナンスが必要だな、と感じることがあります。
医療の現場では、病気や不調の「マイナス面」に注目することが多いです。
しかし、日常生活で人や物事を見るときに“減点法”のような視点ばかりを続けていると、知らず知らずのうちに心が疲れてしまうことがあります。
患者さんと話しているときにも、いろんなことを教えていただきますが、辛いだろうなと感じることがあります。
たとえば
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部下が頑張っても「ここが足りない」と指摘してしまう。
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子どもが90点を取っても「なんで100点じゃないの?」と言ってしまう。
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配偶者の行動に「なんでこれができないの」と感じてしまう。
これは脳がもともと持っているネガティブバイアス(負のバイアス)の影響によるものです。
ネガティブバイアスとは?
人間の脳は、生存のために「危険」「欠点」「失敗」などに敏感に反応するよう進化してきました。
これをネガティブバイアスと言います。
これは本来、危険を回避するために必要な機能なのです。
でも。
現代のストレス社会においては、逆に
「不満」
「苛立ち」
「不信感」
を増幅させてしまう要因にもなります。
減点主義は、心と体にストレスをもたらす
「できたら褒める、できなかったら叱る」
>>>この方式で人と接していると、人は“認められるためにやる”、“叱られたくないからやる”というモチベーションに縛られてしまいます。
自分のモチベーションを誰かに乗っ取られてしまう。
これは、子育てや教育だけでなく、職場や家庭、医療の現場でも同じと思います。
人間の本来持っている「やりがい」や「自己成長」を阻害するだけでなく、慢性的なストレスの原因にもなります。
そしてこのストレスは、高血圧、不整脈、睡眠障害といった循環器系や自律神経系の不調につながります。
ではどうすればいいか?
「褒めて伸びる子」という言葉がありますが、これは単に甘やかすということではありません。
“いいところ”に目を向け、そこを伸ばすという視点を持つことが、心の健康にもつながります。
たとえば、美容皮膚科の診療でも、患者さんの肌の「欠点」ばかりを指摘するのではなく、
「ここがきれいですね」
「この部分はよく改善しましたね」
と伝えることで、患者さんの気持ちは大きく前向きになります。
それが、継続的なケアへの意欲にもつながります。
循環器内科でも同様です。
たとえ血圧が少し高くても
「この半年で体重が減ってきていますね」
といった変化を前向きに評価し、努力を認めることが、患者さんの継続的な健康維持につながるのです。
心も、血管も、定期的なメンテナンスを
私たちのクリニックでは、心臓の状態だけでなく、心のコンディションにも注目しています。
毎日「何にイライラしていたか」「何がうまくいったか」「感謝できたことは何か」を振り返るだけでも、ネガティブバイアスを和らげることができます。
ありがとうって言いたい! と思っているときは順調です。
心のメンテナンスは、体の健康と直結しています。
“足りないところ”よりも、“うまくいっているところ”に目を向けるということです。
それが、血圧を安定させ、心拍を整え、肌を健やかに保ち、毎日の生活を少しずつ豊かにしてくれる第一歩になるはずです。
全部を見ているつもりでも、見たいものしか見ていない、ということが案外あるかもしれません。
今日も、自分と誰かの“いいところ”をひとつ、見つけてみませんか。