糖尿病治療方針についてのメモ その1
欧米人と日本人・アジア人では糖尿病の成り立ちが違う?
糖尿病と聞くと「甘いものの食べ過ぎ」「太り過ぎ」といったイメージを持たれるかもしれません。
しかし実は、日本人を含むアジア人と、欧米人とでは糖尿病のなりやすさも、その背景にある原因も大きく異なっています。
日本人は「インスリンを出す力」が弱い体質
2型糖尿病は、ざっくり言えば「インスリンがうまく効かない」か「インスリンが十分に出ない」ことで血糖値が高くなる病気です。
欧米人では多くの場合、肥満が進みインスリンの効き目(感受性)が悪くなる「インスリン抵抗性」が主な原因です。
ところが日本人は、たとえ太っていなくてももともと「インスリンを出す力」が弱く、それが糖尿病の主な原因になることが多いのです。
また、日本人の膵臓では、肥満になってもインスリンを分泌する細胞(β細胞)の量があまり増えないという体質的な特徴も報告されています。
同じ「糖尿病」でも原因が違えば治療戦略も変わる
欧米では「まずは体重を落としましょう。
薬はメトホルミン(インスリンの効きを良くする薬)から始めましょう」というのが標準的な戦略です。
一方、日本では患者さんごとに
「インスリンの出が悪いのか」
「インスリンが効きにくいのか」
「年齢や合併症はどうか」
などをきちんと評価して、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬などを柔軟に使い分けることが推奨されています。
当院ではよく75g OGTT検査を行っています。
初期の段階からどのタイプなのかを評価して、早期の段階からどう過ごしてくことが良いのか?
何に気をつけていれば、将来を守れるのか?
治療するならどのタイプの薬剤を選択するのがベストか?
そういった視点から治療に取り組んでいます。
日本人の糖尿病は「やせ型」にも多い
驚くことに、日本人の2型糖尿病患者の中には、BMIが23未満、つまりいわゆる「やせ型」の方も少なくありません。
この場合、インスリンを出す力の弱さが主な原因となっているため、血糖値を下げる薬の選び方も欧米とは異なります。
2型糖尿病の薬物治療アルゴリズム というものがあります。
この中では、目標 HbA1cを決めてから
>非肥満・肥満 に分けて薬剤選択しよう、という事になっています。
その境目は、BMI 25 です。
でも実際にはBM 24と26には大きな差はないですし、そのあたりの体型の糖尿病の方も多くいらっしゃるために、なかなかBMIだけで薬剤を決めることは難しかったりします。
糖尿病と腎臓、心臓、血管病の合併は特別な対応が必要
さらに。
腎臓の機能、心不全、心血管疾患(狭心症とか心筋梗塞など)があるかどうかで薬剤が決まっていきます。
SGLT2阻害薬は、このどれにも有効であり、2025年時点における2型糖尿病治療では非常に重要な薬剤です。
GLP1受容体作動薬、というのは聞き慣れない表現かもしれません。
薬剤名で言えば、リベルサス(セマグルチド 内服薬)とかマンジャロ(チルゼパチド 週一回の注射薬) というものがあります。
糖尿病の血糖の管理状態と併存疾患の状況によりSGLT2阻害薬とGLP1受容体作動薬の併用を行うこともあります。
2025年ではこのGLP1受容体作動薬をうまく使うのが、将来の心臓病を減らし、腎臓を守っていくことができる鍵と思っています。(院長の個人の感想です。)
まとめると
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日本人・アジア人の糖尿病は「インスリンを出す力が弱い」ことが主な原因。
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治療薬の選び方も、この違いを踏まえた戦略が重要です。
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やせ型でも糖尿病になる日本人では、早期発見と丁寧な評価が鍵となります。
当院では、患者さん一人ひとりの体質や生活習慣をしっかり見極めて、最適な糖尿病治療を提案しています。
「自分は太っていないから大丈夫」と思わず、健診などで血糖値などでなにか言われたら、気軽にご相談ください。
早めにちゃんと評価しておくと、安心して毎日を過ごせますよ。