糖尿病治療におけるダイエットのみでの限界点を超えるには
糖尿病治療では体重を減らせば、すべてうまくいく?
糖尿病のある方で「体重を落としましょう」と言われたことのある方は多いと思います。
実際、体重を減らすことで、血糖値・血圧・脂質のバランスが改善しやすくなるのは確かです。
でも、心臓や血管の病気、つまり「心筋梗塞」や「脳梗塞」などの重大な病気の予防まで効果があるのか?
ここが長年、医学界の大きな疑問でした。
直感では、きっとうまくいく、です。
薬を飲まないでも、体重をしっかり減らせばいい!という考え方もあります。
でもそれが正しいのかどうか、を確認していくのが科学です。
大規模研究 Look AHEAD
この疑問に答えるため、アメリカで5,000人以上の糖尿病患者さんを対象にしたLook AHEAD試験という大きな研究が行われました。
研究のタイトルからは、前をむこう、将来に備えよう、という意味にも読み取れます。
この研究では、以下のような方法がとられました
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あるグループは、食事や運動を徹底的に指導され、体重を大きく減らすことに成功
(平均で初年度に8%以上の減量) -
もう一つのグループは、通常の糖尿病教育のみ
体重比較赤い実線は、糖尿病の勉強をした組。
青い点線は、食事運動を頑張って体重を減らした組。
その後、約10年間にわたって心臓や脳の病気がどれくらい起きたかを比較しました。
言い換えれば、体重が減ることで、どれだけ生命予後が改善したか、という比較です。
運動量比較
体重が減った組の運動量は数年にわたりしっかり運動しています。
結果は「意外」でした
生活習慣改善で体重が減り、血糖・血圧・コレステロールも改善したのに…
心筋梗塞や脳卒中などの大きな病気の予防 には明確な差が出なかった のです。
結果のグラフ
心筋梗塞、狭心症、脳卒中などでの入院、生命予後比較では差がありませんでした。
それでも、「意味がなかった」わけではありません
この結果を聞くと、「体重を減らしても意味がないの?」と思うかもしれませんが、それは違います。
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体重が減れば、血糖値のコントロールが良くなり、薬の量が減ることもあります。
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関節への負担が減って、動きやすくなり、生活の質が上がります。
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自分で生活を変える力がつくこと自体にも意味はあります。
ただし、心臓や血管の病気を防ぐには体重管理は重要である。
でも、体重管理だけでは、心臓血管リスクは下がらない。
血圧・コレステロール・糖尿病の薬物治療との組み合わせが重要だ
ということが、この研究から明らかになりました。
別な観点から
最初の1年で体重をしっかり減らせたものの、その後維持するのは非常に困難でした。
仮説として、もしこの体重をしっかり維持できていたら結果は違うのでは?
とも考えられます。
そして、更に研究が進み、体重減量が維持できていた方々を10年追ったサブ研究も報告されました。
少しだけ、良い結果が出ていました。
つまり、「減らす」ことと同じように、「続ける」ことが心臓の健康にはより大切だという教訓でもあります。
糖尿病で心血管リスクを下げる薬とは
SGLT2阻害薬:ジャディアンス フォシーガ では、心不全・腎不全にも予防的に効果が認められています。
心血管リスクも下げてくれることが確認できています。
SGLT2阻害薬は、血糖値を下げるだけでなく、
「体の余分な水分・脂肪・糖」をやさしく減らしながら、心臓にかかる負担を軽くしてくれる新しいタイプの心臓を守る薬、とも言えます。
GLP1作動薬:ビクトーザ(LEADER試験 心血管イベント)
オゼンピック(SUSTAIN-6) リベルサス(PIONEER 6) ともに心筋梗塞 脳梗塞リスクの低下
トルリシティ(REWIND試験で特に脳卒中リスクの低下)
これらは、抗動脈硬化作用としての抗炎症作用・血管内皮機能改善が効いているとも推測されています。
一人ひとりに合った総合的な治療が重要
戸頃循環器内科クリニックでは、
- 食事や運動のサポート
- 薬の調整
減らしていい薬は減らす視点
- 心電図やエコー、血液検査による定期的なフォロー
などにより、始める と 続ける の両方を意識的にサポートしています。
この研究結果から
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糖尿病と肥満がある方には、体重管理は重要。
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でもそれだけでは心血管リスクは十分に下がらない。
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薬・生活習慣・検査を組み合わせて、自身の状況にあわせて病気と付き合っていく
- 三日坊主上等。
なんどでも新たな気持ではじめて、続けるのがよい。
こんなことを考えたり、活かしたりします。
ご自身やご家族の健康について気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。