糖尿病は治らない病気なのか?
「糖尿病って、一度なったら一生の付き合いですよね?」
本当にそうなのか。
という事を考えてみます。
たしかに以前はそう考えられていましたが、近年では「糖尿病は寛解(かんかい)できる病気」という考え方が広がっています。
寛解とは「治る」こと?
糖尿病の「寛解」とは、薬を使わずにHbA1cが6.5%未満の状態を1年以上維持している状態を指します(ADA, 2021)
完全に“治った”というより、【一時的に病気の影響が消えている状態】と捉えるのが正確です。
日本人における寛解率:JDDM73研究から
日本糖尿病データマネジメント研究(JDDM)グループが行ったJDDM73研究(2023年発表)は、
「日本人2型糖尿病患者における寛解の実態と予測因子」を初めて大規模に調査した研究です。
主な結果は
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観察対象:約3,600人の2型糖尿病患者(全国の糖尿病専門クリニック)
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寛解達成者は全体の7〜10%程度
10人にひとり、くらいの割合
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寛解しやすかった人の特徴は
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発症から5年未満
検診でもなんでも見つかってから時間が経っていない
つまり、糖尿病かも?と言われたら、「なるはや」で受診が大切。
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BMIが27以上
肥満、は問題ではないです。
むしろ、可能性を感じます。
肥満が主因でインスリン抵抗性が高まっている場合、減量でインスリン感受性が改善し、寛解が起きやすい、ということです。
【Look AHEAD試験】【DiRECT試験】などでも、10%以上の体重減少で寛解率が大きく上昇してます。
肥満≒可逆性が高い糖尿病>>現代なら、どうにかできそう、ともいえます。 -
HbA1cが8.0%未満
軽症ほど、寛解しやすい、のは想像通りかもしれません。
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インスリン分泌が保たれている(空腹時Cペプチド > 1.0)
75g OGTT検査をして、インスリン分泌が正しく評価します。
当院では、積極的に検査をしています。
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集中的な生活習慣改善やGLP-1治療を導入していた
どの治療薬を選ぶか、でも寛解に影響・効果の違いが出る、ということです。
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重要なポイント
欧米人より痩せ型で、インスリン分泌不足が主体の日本人では、体重減少だけでは寛解に至らないことも多い、です。
しかし、早期から適切な介入をすれば、寛解は十分に現実的な目標となります。
(JDDM研究グループ・2023年日本糖尿病学会年次集会発表)
寛解後も安心ではない>再発のリスク
寛解したからといって、それで安心とはいえません。
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【DiRECT試験(英国)】では、寛解達成者のうち約50%が5年以内に再発
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JDDM73でも、体重の再増加や運動習慣の中断でHbA1cが再び上昇するケースが報告されています
つまり、寛解は「スタート地点」であり、継続的な生活習慣管理が必要です。
寛解しなきゃ、だめなのか。
そんなこともありません。
しっかり研究されています。
糖尿病が残っていても心臓は守れるの?
これは非常に重要なテーマです。
最近のスウェーデンの大規模研究(Swedish NDR, N Engl J Med 2018)では、
糖尿病がある人でも、「血糖(A)・血圧(B)・コレステロール(C)」の3つをしっかり管理できている人は、
心筋梗塞や脳卒中のリスクが、糖尿病のない人とほぼ同じだったと報告されています。
寛解よりも“ABC管理”が大切
当院では、寛解そのものをゴールとするのではなく、心血管リスクの低減=健康寿命の延伸を第一に考えています。
そのために重視しているのが「ABC管理」です。
項目 | 管理目標(目安) | 意味 |
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A = HbA1c(血糖) | < 7.0% あるいは<8.0% | 糖尿病の進行と合併症を予防 |
B = Blood Pressure(血圧) | < 130/80 mmHg | 脳卒中・腎症のリスク低減 |
C = Cholesterol(LDL-C) | < 100 mg/dL(動脈硬化があれば70未満) | 動脈硬化と心疾患の予防 |
これらを総合的に管理することで、糖尿病のある人でも心臓・血管の病気を防ぐことができます。
大事なことは
糖尿病が「寛解」する人もいます。
けれど、「寛解しなかったからダメ」ということではありません。
重要なのは、「血糖・血圧・脂質を含めた全体のリスクをしっかり整えていくこと」です。
そしてそれは、決して一人では難しいことです。
私たち戸頃循環器内科クリニックは、糖尿病のその先=心臓・血管・腎臓を守る医療を目指しています。
“数値を下げる”
ことだけが目的ではなく
“毎日を安心して暮らせる体づくり”
を一緒に考えていきます。
参考文献・出典
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Rawshani A et al. Swedish National Diabetes Register. N Engl J Med. 2018;379:633–644
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ADA. Diabetes Remission Consensus Report. Diabetes Care. 2021;44(10):2434–2440