糖尿病治療における循環器診療の重要性
以前、糖尿病治療は血糖を下げる、ということが治療の目標でした。
今も治療の指標にはなっています。
治療の目標は簡潔です。
糖尿病による合併症を抑制すること。
心理面での負担を軽減すると。
糖尿病がない人と変わらないQOLを保つこと
寿命をまっとうすること。
合併症はQOLの低下と直結します。
網膜症は視力障害の脅威です。
腎症はいずれ透析になる可能性があります。
そこまでいかなくとも食事や内服薬の制限がかかります。
神経障害は足の裏の異常感覚や手のしびれなどを起こします。
さらに脳梗塞、心筋梗塞などを起こし得ます。
悪性腫瘍、感染症、歯周病、骨折、認知症、サルコペニア、フレイル。
循環器領域では心筋梗塞のみならず、糖尿病性心筋症により心臓の機能が低下することがあります。
糖尿病治療ガイド 2022-2023,文光堂より引用
こういったことは診療ガイドラインで明記され共有されています。
最新版は2024年と銘打たれています。
今月、アメリカの糖尿病学会から重要論文が発表されました。
糖尿病の標準治療2025 というタイトルです。
Diabetes Care. 2025;48(Suppl. 1):S1-S352.)
上記はその中で薬剤選択の表です。S190ページ。
日本語に訳してみました。
糖尿病患者、という表現は使わないようにしよう。
糖尿病がある方、と表現しようとか、
肥満患者、とは言わず、肥満症がある方、と表現しようなど医療従事者の認識に対しても注意が明記されていました。
心不全や狭心症、心筋梗塞などの心臓血管疾患、腎臓病があるときにはGLP1やSGLT2阻害薬を積極的に使用すべき、ということを明確に記されています。
GLP1は特に体重減少効果が非常に優れていると書かれています。
糖尿病の治療を行うで、心臓病を予防するには、どの薬剤で血糖降下治療を行うか、ということが非常に重要であるということです。
同様に慢性腎障害においても、SGLT2阻害薬で治療することが重要である、ことです。
これはこの論文中でも繰り返し重要性が明記されています。
いくつかの報告では、2型糖尿病の20%から48%程度の範囲で慢性腎障害が合併していると言われています。
2型糖尿病では、約半数しかそもそも慢性腎障害のスクリーニングを受けていないという報告もあります。
では、なぜ慢性腎障害に特効薬とも言えるSGLT2阻害薬が用いられないのか? という研究論文があります。
https://doi.org/10.1111/dom.15789
ここで論じられているのは、慢性腎障害でSGLT2阻害薬が用いられない(バリア=障壁)理由は
-
慢性腎疾患(CKD)とそのリスク要因の認識不足
患者と医師の両方が、CKDのリスクやその初期症状を認識していないこと。
特に初期段階ではCKDが無症状であるため、診断が遅れがちである。 -
ガイドラインの知識や遵守の不足
一部の医師は最新の治療ガイドラインについて十分な知識を持たず、CKDのスクリーニングや治療の必要性を過小評価している。 -
診断やスクリーニングの実施率の低さ
eGFRや尿アルブミン・クレアチニン比(UACR)によるスクリーニングが推奨されているものの、実際にはそれが十分に行われていない、 -
治療慣性(Therapeutic Inertia)
一部の医師は、治療が効果的でないと誤解している。
このため、SGLT2阻害薬のような効果的な治療法の導入に遅れが生じている。 -
経済的な障壁
SGLT2阻害薬の治療費が患者にとって負担となっている。 -
患者の治療アドヒアランスの問題
CKDの初期段階では症状が乏しいため、患者が治療の重要性を認識せず、薬物治療を中断するケースがある。
と明記されています。
戸頃循環器内科クリニックでは、こういったことを踏まえ、
治療の目標共有が重要であること。
特に腎臓の障害がで始めた初期では症状が感じにくいため、早期発見に務めること。
さらに症状がない中でも障害が進む前にしっかりと治療を開始し継続していくこと。
都度治療がうまく行っているかどうかを判定していくこと。
腎臓のみならず心臓病、血管病、動脈硬化の進行などをしっかり把握し適宜対応していくこと。
薬剤のみならず、食事や運動習慣のサポートが大切であること。
血圧や脂質の管理も血糖管理と同等に重要であること。
難しい理論や知識はスタッフに任せていただくのが良いと思っています。
糖尿治療において、最新の治療を踏まえ治療の目標を明確にし診療にあたります。