心臓の筋肉とは
心臓は筋肉でできています。
心筋、といいます。
筋肉には筋線維の分類により、骨格筋、平滑筋、心筋の3種類があります。
循環器内科での治療はまずは心筋を中心に考えます。
良い筋肉がいい心臓を作ります。
心筋は7つの特殊な性質を持っています。
1.自動能(興奮発生能)
心筋は自律的に電気的な興奮を発生する能力を持っています。
これは洞結節(ペースメーカー)が担っており、外部からの刺激がなくても心拍を生み出します。
この特性により、心臓は休むことなく拍動し続けます。
一日に、10万回、心臓は収縮しますが、言い換えれば、一日に10万回電気を発生させている、ということです。
電気はとどまることができないので、常に流れていく性質があります。
洞結節から始まる興奮は心房から心室へと伝わり、効率的な血液循環を可能にします。
この洞結節が一定周期で電気信号を流しますが、更にほかから電気がばちばちと発生することもあります。
特に肺静脈と左心房が接している部分でこの自動能心筋が電気を出す病気が心房細動だったりします。
2.電気的同期性
心筋細胞はギャップ結合を通じて密接に連結されており、電気的な信号が細胞間で迅速かつ効率的に伝達されます。
これにより、心筋全体が同期して収縮することが可能となり、血液を効率的に送り出します。
簡単に言えば、細胞同士がぴっちりくっついているので、一緒に縮み、一緒に伸びる、という性質です。
洞結節から電線が数本でていますが、この電線が切れてしまうと、伝導障害といったりします。
切れた場所により、洞房ブロック、とか、房室ブロック、とか脚ブロックとか名前がつきます。
健康診断でよく見つかる右脚ブロック、というのもこの一つです。
完全に電気が流れなくなると、脈は極めて遅くなるのでペースメーカーの治療が必要になることもあります。
3.不随意筋
心筋は骨格筋と異なり、意識的に制御することはできません。
一日10万回、「動け!」「止まれ!」とは意識していませんね。
調節しているのは、自律神経系(交感神経と副交感神経)です。
自律、つまり自分でかってに、しかし程よく、心拍数や収縮力が調整されます。
- 交感神経: 心拍数と収縮力を増加させる(例: 運動中)
- 副交感神経: 心拍数を減少させる(例: 休息中)
この調整がうまく行っていないときがいわゆる自律神経障害、などと呼ばれたります。
睡眠不足や、感染症、カフェインとりすぎ、いらいらMax などでは交感神経がびんびんになり疲れてしまいますね。
副交感神経はリラックスの神経です。
適度な運動や、心地の良い音楽などはいかがですか。
夜寝る前に、目をつぶって5分くらいゆっくり深呼吸すれば、それは瞑想です。
4.疲労耐性
心筋は生涯にわたって絶え間なく動き続けます。
非常に高い疲労耐性を持っています。
これは、心筋がミトコンドリアを多く含むことと、安定したエネルギー供給(脂肪酸やグルコース)を受けられる仕組みによるものです。
ミトコンドリアがATP というエネルギーを作って、細胞の機能発揮を助けます。
このATPを作るための補酵素が、コエンザイムというものです。
加齢によりコエンザイムは減ってきますので、サプリメントなどで補おう、ということも理にかなっています。
5.強縮の不可
骨格筋は連続的な刺激で強縮(tetanic contraction)を起こしますが、心筋はこれを起こしません。
心筋の不応期(興奮後に再び興奮しない期間)が長いため、持続的な収縮が防がれ、心臓が適切に拡張して血液を受け取ることが可能になります。
心臓が縮んだままだと、血液を送り出すことができなくなります。
それを防ぐ特徴があるということです。
腕や足の筋肉・骨格筋はぐっと、力を入れれば縮み続けることができるのと非常に対照的です。
足がつったときは、この強縮が起こった状態です。
心臓の筋肉がつったら大変なことになるのは明らかです。
6.結合組織による支持
心筋は心内膜、心筋層、心外膜で構成され、これらの層が一体となって心臓の構造を維持しながら、収縮力を全体に伝えます。
その構造のそれぞれにはそれぞれ固有のトラブルも起こります。
心内膜では、血液中の細菌が繁殖して、感染性心内膜炎になったり、内膜虚血、つまり血液が足りない、という状態が起こりえます。
冠動脈(心身に血液を送る配管システム)がとても細くなった状態では、この内膜虚血が起こります。
冠動脈が完全に詰まってしまうとと内膜のみならず心筋全体が虚血・壊死します。
心筋梗塞という病気です。
心筋自体が勝手に厚みを増す肥大型心筋症、またはどんどん薄くなって広がっていく拡張型心筋症、など心筋の病気は多いです。
心臓の中を流れる血液の圧力が高くなれば>>>>血圧が上昇すれば、心筋が厚くなったり、伸びてしまったり。
それぞれ、左室肥大、と、左房拡大、という病名で呼ばれます。
左房が拡大すると、心房細動、という不整脈の発生原因となります。
7.ホルモン分泌
心筋細胞にはホルモン分泌能もあります。
特に<BNP あるいはNT pro BNP びーえぬーぴー>は心筋から分泌され、血圧調整や体液量の調整に寄与します。
心不全の重症度診断や治療の効果を見るのに、このBNP・NT proBNPを血液検査で測定し、患者さんの状態や治療の効果を判定するのに用います。
縮む伸びる、だけではなく、心臓の中を流れる血液の量や圧力を、自ら分泌するホルモンで調整している、ということです。
このような特徴の理解を深め、患者さんの病気の診断、あるいは今後起こるかもしれない病気の予測、治療の選択、治療の効果の判定、今後の寿命の予測、それをうまく伸ばすためにどうすればいいのか。何を判断の根拠にすればいいのか。
心臓の電気の流れを記録する心電図。
心臓の動きや血液の流れ、そこら推定する心臓の中の圧力をみる心エコー。
壁の厚さや動きもエコーでわかります。
CTスキャンでは、心筋の厚みや形、動きや異常なものの存在、動脈硬化や心筋の性状、など様々なことがわかります。
心臓の負担を見る血液検査。
こういったものを短時間で同時に検査することで、現在の状態を迅速に判断し、治療に活かします。
心臓や血管の状態を見ながら血圧の管理を行うので、循環器内科医は血圧管理が非常に得意です。
循環器内科医はこういった知識と検査を用いて、眼の前にいる患者さんの身体の状態を把握していきます。
患者さんやそのご家族様と、お連れ様など様々な方とお話をしていき診断治療を進めていきます。
治療に近道などなく、全ては地道に進んでいくものですね。