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肥満と心不全について

[2025.01.30]

心不全は息が苦しい、だるい、むくむ、という症状があります。

呼吸困難、倦怠感、浮腫、という医学表現で言われます。

 

心不全の分類法のうち、心臓の収縮力に注目したものがあります。

左室駆出率 LVEFという指標です。

左心室がどれくらい広がりどれくらい縮めるか、という指標です。

通常はLVEF  50%以上 が正常です。

 

直感通り、このLVEFが低下している=収縮力が低下している=心臓機能低下

は正しいです。

それにより心不全になる、心不全症状がおこります。

この状態向けの治療薬は、多くの研究の成果があり、基本的な4種類の組み合わせができています。

循環器内科の多くの先生がこの状況で使う薬の定番があるのを知っています。

 

しかし。

 

LVEFが低下していないにも関わらず心不全症状がでてくることがあります。

これをLVEFが保たれた心不全、という分類で表現されます。

様々な研究において、このLVEFが保たれている心不全に対して、有効な薬剤はないか?とチャレンジされてきました。

2025年1月現在では、SGLT2阻害薬の一部と、MRAという薬の一部が有効であることが報告されています。

SGLT2阻害薬は保険適応もあり、各国の心不全ガイドラインでも推奨されています。

 

ARNI アーニィ と呼ぶ人が多い薬 *薬剤名 エンレスト という薬剤があります。

これは、LVEFが低下している心不全 では基本的な治療薬です。

このARNIが LVEFが低下していない心不全 にも有効かどうか?と調べた研究がありました。

PARAGON-HFという研究です。

ARNIと従来のARBという薬剤の比較で、心臓血管死亡も心不全入院も特に有効性は見られず、という結果でした。

 

まあ、そうか、という結果ですが、その解析がなされた研究が今週報告されました。

非常に参考になる解析でしたので、ここに記載させていただきます。

 

Near-universal prevalence of central adiposity in heart failure with preserved ejection fraction: the PARAGON-HF trial
28 January 2025

 

この左室駆出率が保たれた心不全は HFpEF へふぺふ といいます。

この研究で集められた患者さんは、

1. BMI 30以上が49%

2.WHtR(ウエスト÷身長 比率)でみると 96%は中心性肥満。
   37%は高度の中心性肥満(WHtR 0.6以上)であった

つまりHFpEF患者のほぼ全員が中心性肥満であった、ということです。

 

さらに。

WHtRは心不全リスクの強い指標であると言えます。

BMI 30以上は心不全リスクが悪化します。これは他の研究結果からも明らかです。

WHtRは線形的・直線的に心不全リスクが上昇していました。 

比率が多いほど心不全になりやすい、ということです。

以前は、BMIパラドックスといって、肥満の方が死亡率が低い、という観察研究がありましたが、このWHtRではそのような逆説的な結果は見られませんでした。

 

身長173cm    ウエスト 90cm  では

WHtR = 90/173  = 0.52

 

0.5未満 正常
0.5  〜 0.59  軽度から中等度の中心性肥満

0.6以上 高度な中心性肥満

となっています。

 

この論文研究で非常に参考になるのがHFpEFにおける肥満の考え方です。

つまり、いままでは、肥満関連HFpEF という扱いで論じられていましたが、中心性肥満はHFpEFの特徴の一部である、という考え方です。

 

これは一体どういうメカニズムなのか。

内臓脂肪の増加が心臓周囲の脂肪組織(心外膜脂肪)の炎症を引き起こし、冠微小血管の損傷や線維化を促進することがわかっています。

 

心外膜脂肪(epicardial adipose tissue:EAT)は心房細動の発症リスクアブレーション治療への抵抗性再発リスクにも関連しているという報告が増えています。

 

ARNI(薬剤名 エンレスト)は肥満(BMI / WHtR)が高度なほど、心不全に対する治療効果が高い傾向は見られました。でも統計的にはARBと比較して有意な作用ではないようでした。

プラセボと比較したら違う結果かもしれません。

あるいは、SLGT2阻害薬と併用して比較したらまた違うかもしれません。

 

この論文を読み込み、自身が得た示唆は2つです

HFpEF患者さんに診療に当たるとき、単純なBMIだけではなく、WHtRを測定することで、より正確な心不全リスク評価が可能になる。

 

肥満に関連したHFpEF患者さんでは、心外膜脂肪の炎症を抑えることが治療ターゲットとなりうる可能性がある。

 

当院では、この脂肪周囲の脂肪組織をCTで解析しています。

自費検査で8,000円ですが、今後の心不全リスクや心房細動の発症リスク予見、アブレーションの治療効果の予測などに役立てることができます。

次回は、ウエスト周り 腹囲が大きくなる原因についてまとめようと思います。

 

 

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