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心不全と肥満について。最近の論文から考えること。

[2024.11.06]

心不全の患者さんは増えていると日々の診療から実感していますし、データもその傾向を示しています。

2020年頃には、日本で心不全患者が推定120万人に達したとされています。

この数字はさらに増加する見込みで、高齢化が進むほどに罹患率も上昇しています。

 

早期発見早期治療は、いつだって重要です。

心不全でも、予防や早期対処は大事です。

 

肥満について。

2022年の「国民健康・栄養調査」によると、男性20歳以上の肥満率(BMI≧25)が31.7%に達しており、ここ10年で上昇傾向が続いています。

食生活の変化(野菜摂取が減っている)や日常活動の減少(一日の歩数減少)が、肥満率の上昇に拍車をかけています。

 

肥満は心不全の大きなリスク要因であり、「肥満を伴う心不全」と「肥満が原因となる心不全」という二つの側面で影響を与えています。

 

特に内臓脂肪の増加は心不全のリスクを高めるため、単に体重やBMIだけでなく、内臓脂肪の評価も健康管理において重要です。

 

 

最近注目されているGLP-1受容体作動薬についても触れておきたいと思います。

これは、もともと2型糖尿病治療薬として開発されました。

 

日本でも内服薬と注射薬が使用可能となっています。

 

さらに、体重管理にも効果があることが論文上では示されています。

 

内臓脂肪の減少や血糖値のコントロールが期待できます。

 

それにより、心不全や肥満関連疾患の予防にも応用が広がりつつあります。

最新の研究成果をいくつかご紹介させていただき、私見を書かせていただきます。

 

 

糖尿病がない肥満の方にGLP1受容体刺激薬を投与したら、心臓病リスクは減るのか?

N Engl J Med 2023;389:2221-2232


糖尿病の治療薬を糖尿病ではない肥満の方に使うということで、当然、日本では、保険適応外のことです。

海外での研究です。

SELECT研究と呼ばれていて有名です。

 

週1回のセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)の投与が、糖尿病のない肥満患者でも心血管疾患リスクの低減に有効であることが確認されました。

この試験は、肥満または過体重で既に心血管疾患を患っている45歳以上の患者を対象に実施されました。

参加者は、セマグルチド2.4mgを週1回皮下注射するグループと、プラセボを投与するグループにランダムに分けら、平均約40か月間にわたって追跡されました。

その結果、セマグルチド投与群では心血管疾患の発生率がプラセボ群に比べ約20%減少しました。

 

主な結果

  • 心血管疾患リスクの低減:セマグルチドを使用した患者のうち、非致死的な心筋梗塞や脳卒中、心血管死の発生率が有意に低減しました(ハザード比0.80)。
  • 体重の減少:セマグルチド投与による平均体重減少率は約9.4%で、ウエスト周囲径も大幅に減少。
  • 血圧とCRPの改善:セマグルチド投与は収縮期血圧の低下(3.3 mmHg減少)と、炎症マーカーであるCRPの37.8%減少をもたらしました。

 

私見;糖尿病の治療薬という捉え方ではなく、肥満が心臓病リスクであり、肥満の治療薬、として捉える可能性を考える研究です。

実際、体重が重いと運動するのも辛いし、何をするにも面倒に感じやすくなると思われます。

そこを打破する可能性が感じられる研究と言えます。

 

つづいて。

 

若者で肥満の方にGLP-1受容体刺激薬を投与したら? 


 
この研究では、週1回のセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)投与とライフスタイル改善を組み合わせた治療を比較しています。
 
従来のライフスタイル介入のみと比較して、思春期の肥満患者のBMIの大幅な減少に寄与することが示されました。
 
この研究には、12~18歳の肥満および過体重の若年層が参加しました。
 
68週間の治療期間を経て、セマグルチド投与群は平均で16.1%のBMI減少を達成し、体重の5%以上を減少させた参加者も73%に上りました。
 
セマグルチド投与群では、体重が100〜110kgだったのが、平均で 15kg ぐらい痩せてます。
 
さらに、セマグルチドは、血糖やコレステロール、ウエスト周囲径などの心血管リスク因子の改善も促しました。
 
副作用として、消化器系の症状(吐き気や腹痛)が見られたものの、これらは一過性であり、治療を継続できるものでした。
 
 
 
循環器内科医として見ると、将来心臓病で苦しみそうな方々が、この治療で体重減量し、心臓病のリスクをぐっと減らしたように思えます。
 
早期発見早期予防は大事です。
 
この場合、10代の思春期ということで、ある意味早期治療、と言えます。
 
長期の安全性の懸念はありますが、この論文ではそこは明らかなものは読み取れません。
 
 
 
肥満を伴う心不全の治療薬の予感を感じます。
 
糖尿病がある心不全ではどうだろうと。
 
 

GLP1受容体刺激薬は糖尿病で肥満がある心不全患者さんの症状を改善させる事ができるのか?

 
 
心不全を合併しているので、動くと苦しい、だるい、足がむくむ、などの症状があり、なかなか運動もしにくい状況になります。
 
その中で、GLP-1を用いて体重が減ると心不全患者さんにはどのようなメリットがあるのかということを調べました。
 
 

主な結果

  • 心不全症状の改善 辛さが減った。

    心不全患者に特化した評価スコア(KCCQ-CSS)において、セマグルチド群はプラセボ群よりも症状が大幅に改善され、より活動的な生活を送ることができると報告されています。
  • 体重減少 痩せた。

    セマグルチド群は平均で約10%の体重減少が見られ、プラセボ群と比較して有意な差が確認されました。

  • 運動機能の向上 動けるようになった。

    6分間の歩行距離も、セマグルチド群で有意に改善し、運動能力の向上が見られました。

  • 炎症の軽減 血管トラブルや臓器トラブルの可能性が減った。

    炎症マーカーであるCRPも大幅に減少し、心血管リスクの低減に寄与する可能性が示されました。

 

 

私見;糖尿病の治療といえば、血糖を下げる、というイメージを持ちますが、こちらは体重を減らすことで上記のようなメリットが生まれています。

では、糖尿病は関係なく、肥満で心不全ではどうだろう、と。

 

 

肥満で心不全患者さんへの効果は?

N Engl J Med 2023;389:1069-1084

 
糖尿病の有無は関係なく、肥満の心不全患者さんにGLP1を用いたら、心不全の症状、生活の質が改善しましたという報告です。
 
 
上記いづれも、肥満と心不全の関連で、GLP1の有効性を検討した研究です。
 
 
実際には、GLP1を中止すると、体重が戻る(リバウンドする)という事が言われています。
 
重要なのは、食事管理、運動管理を続けることになります。
 
 
 
言葉で言えば簡単なことですが、実際には難しいです。
 
食事に関しては、満腹にならないように徹底的に気をつける、という方針は有効です。
 
 
運動では、散歩をたくさんすると、高度肥満があるときには苦しくて続かないということがあります。
 
さらに。
 
膝が痛くなってきて、運動できなくなり、余計に体重が増えるというジレンマがあります。
 
 
膝をかばって歩いていると、今度は反対の膝、あるいは腰まで痛くなってくるという悪循環も起こります。
 
 
 
そこで。
 
 

GLP1を肥満で膝の悪い方に使ったら、膝の負担は取れるのか?

ということが気になってきます。

 

 
 
 
こちらは、そのものずばり、膝関節症の肥満の方でのGLP1の効果を見たものです。

 
 
(A)のグラフでは、体重は14%へりました。

(B)では、膝の痛みが減った、という結果です。
 
一元的に考えると、体重が減り、膝の負担が減り、痛みが良くなったよ、ということになります。
 
 
運動して下さい、と言い続けても、様々な事情でできないことがあります。
 
運動が大事だよと言い続けても自体が悪化する可能性があるわけです。
 
 
こういった研究が次の時代の治療のアプローチの順番を変えてくる可能性があります。
 
目の前の患者さんにとって、役に立つことを届けることが大事です。
 
 
 
有益な情報や知識を得て、
 
かつ、安全性にもしっかり配慮し確認していき
 
ルールに則った形で
 
わかりやすく治療、あるいは予防を提供していくのが自分の仕事と思っています。
 
 
論文がいつでも正しい訳ではないことを知っているのが私の強みかもしれません。
 
 
 
 

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