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若年女性の狭心症

虚血性心疾患は世界中でも死因に大きく関わるものです。

近年、若年女性でIHDの有病率が徐々に増えており、一部の先進国では死亡率の増加も報告されています。

若い女性の安定狭心症について説明している日本語サイトはほとんどないため、当院で解説をいたします。

 

(1)症状の特徴

(2)月経周期とホルモンの影響

(3)微小血管の病態(INOCA/ANOCA・MVA)

(4)診断・治療の考え方


以下、臨床で役立つポイントに絞って解説します。

重要な点

  • 若年女性の狭心症は、冠動脈に狭窄・閉塞のない冠動脈(INOCA/ANOCA)微小血管狭心症(MVA)が多く、従来の「太い血管の詰まり」だけでは説明できない。

  • 月経周期(特に月経直前〜月経期)に症状や運動負荷での虚血所見が悪化し、卵胞期には軽くなる傾向がある。

  • 評価と治療は個別化が重要。

    症状日誌や検査のタイミング調整、内皮機能・微小循環を意識した薬物・生活介入が有効。


月経周期と狭心症の関係

  • 月経周期は卵胞期(エストロゲン高め/プロゲステロン低め)→黄体期(エストロゲン低め/プロゲステロン高め)で推移しています。

  • 多くの報告で、月経直前〜月経期に「胸の圧迫感・息ぐるしさ・背部や顎の痛み・動悸」が増え、血流依存性拡張(FMD)が低下することが示されています。

  • 逆に卵胞期は虚血イベント・自覚症状が少なく、FMDは改善しやすい傾向にあります。

  • 特発性冠動脈解離(SCAD)歴のある若年女性で、月経直前の胸痛が観察された報告もあります。

INOCA/ANOCAと微小血管狭心症(MVA)

  • 狭心症精査患者の約半数は太い冠動脈に有意狭窄がありません。

    多くは冠微小循環障害(CMD)内皮機能障害冠攣縮が背景にあることがわかっています。

  • INOCAは「閉塞がないのに虚血がある」状態で、原因としてCMD/冠攣縮が関与していることがあります。

  • これらは女性に多く、冠動脈造影を受ける女性の50–70%が非閉塞性。

    非閉塞性の女性は閉塞性の女性より若い
    傾向にあります。

  • 若年(45歳未満)では狭心症が重く感じられやすく、機能的能力は年齢とともに低下していきます。

    ホルモン変動
    が症状に影響する可能性があります。

  • CMDを伴う人は、将来の心血管イベントリスクが高いことが示されています。

診断の考え方について

  1. 症状の丁寧な聴取

    • 胸痛の場所・性質・持続時間・誘因(労作、ストレス、冷え、夜間など)

    • 月経周期との関係(周期何日目か、前回月経開始日)

    • 狭心症等価症状(息切れ、背部痛、顎痛、吐きけ、動悸など)

  2. 基本検査

    • 12誘導心電図、心エコー、ホルター心電図、血液検査(脂質、HbA1c、炎症・甲状腺など)

      いわゆる生活習慣病リスクやホルモン異常、心臓機能などを評価します。

    • 必要に応じて冠動脈CT(CTA)で解剖学的情報を確認します。

      造影剤を用いて、冠動脈にプラークがある/ない を判定します。

  3. 機能評価

    • 運動負荷試験は症状再現に有用です。

      階段昇降や自転車を漕いでいただき、心電図を記録します。

      状況によっては、心臓に負荷をかける点滴をしながら心エコー検査を行います。

      月経直前〜月経期に強く出る方は、その時期に合わせた評価が参考になります。

    • 冠攣縮が疑わしい場合は専門的な機能検査を検討(連携施設で実施)。

      心臓カテーテル検査です。血管にカテーテルを挿入するため、僅かなリスクが伴います。

  4. 鑑別

    • 閉塞性冠動脈疾患、攣縮性狭心症、微小血管狭心症、心外性要因(消化器・整形・不安障害など)の影響をしっかり検討する必要があります。

      不安や気持ちの乱れ、ストレスによる症状の可能性もありますが、そもそも狭心症が疑われている状況で不安にならないほうが珍しいので、心理的なストレスへの配慮は絶対に必要です。

治療とマネジメント

  • 生活・リスク修正

    • 禁煙・受動喫煙の回避、睡眠・ストレス管理、日常の運動、体重・血圧・血糖・脂質の最適化。

    • 血管内皮を守る観点での有酸素運動地道な生活改善は効果が出やすいものです。

    • 当院ではヨガで心身ともにリラックスすることも選択肢としております。
  • 薬物療法(個別化つまり人によって調整内容が異なります。)

    • 攣縮主体:カルシウム拮抗薬、硝酸薬、ニコランジル

    • 微小循環主体:β遮断薬、ACE阻害薬/ARB、スタチンなどを症例に応じて。

    • 痛み/交感亢進が強い場合は補助的対処を考えます。

      不安を取り除くための通院サポートや薬物加療調整などです。

    • 月経周期と症状の相関が明確な場合、時期に応じた用量調整ホルモン要因の評価を検討(婦人科と連携)。

  • 心臓リハビリテーション

    • 有酸素運動の処方、呼吸法、ペース配分の指導は、症状しきい値の改善に寄与します。

当院で対応できること

  • 心電図、心エコー、血液検査一式

  • 冠動脈CT(心臓ドックでも可能です。)

  • 運動負荷評価(方法はご相談の上で選択)

  • 攣縮性・微小血管狭心症の侵襲的検査(入院精査となり地域連携施設に依頼しています)

  • 生活改善・運動療法の具体処方、薬物治療のきめ細かな調整

  • 女性のライフステージ(妊娠計画、授乳、月経不順、POI/PCOSなど)を踏まえた総合的ケア

来院前にメモしていただくと助かります

  • 直近3か月の月経開始日と、おおよその周期長

  • 症状が強くなるタイミング(周期のどの時期か)

  • 痛みの性質・持続、誘因、和らぐ条件

  • 服用中の薬、サプリ、カフェイン摂取、喫煙歴

  • スマートウォッチ等の心拍記録や運動ログがあれば併せて

受診を迷っている方へ

「若いから心臓ではない」とは限りません。

冠動脈に閉塞がなくても虚血や血管の反応性異常が関与しているケースは珍しくありません。

月経周期で症状が揺れる方も、評価のタイミング調整で原因が見えやすくなります。

気になる胸部症状が続く場合は、遠慮なくご相談ください。

当院ではしっかりお話を伺い、必要な検査を迅速に行い、適切な診断と治療の調整を行っています。

 

  • 若年女性の狭心症は、ホルモン変動・微小循環・攣縮といった要素が絡みます。

  • 月経直前〜月経期に悪化、卵胞期に軽快というパターンが手掛かり。

  • 評価と治療は個別最適化が鍵。当院は循環器専門として、女性のライフステージを踏まえた診療を大切にしています。

 

 

参考文献 European Heart Journal (2025) 00, 1–11

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