高齢者の筋力低下を防ぐためにできること
先日ある方から、親御さんがだんだん歩くのが遅くなってきた、という相談をいただきました。
握力も弱くなって気がする、ということも言われておりました。
その方は50歳代で、ご両親は70歳を超えられているということでした。
そんな心配をされている方も多いと思います。
サルコペニアと甲状腺の関係
サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)と甲状腺機能の関係について、最近の研究をもとに考えていきます。
加齢による筋肉の減少(サルコペニア)は、転倒や寝たきりのリスクを高める大きな要因になります。
そして、意外にも甲状腺ホルモンも筋肉の衰えに関係していることがわかってきました。
甲状腺と筋肉の関係とは?
甲状腺は、首の前にある小さな臓器です。
FT3・FT4(甲状腺ホルモン)を分泌し、体の新陳代謝を調節する働きがあります。
さらに、この甲状腺を、脳にある下垂体からのホルモンであるTSH(甲状腺刺激ホルモン)が刺激し調節しています。
このホルモンは筋肉のエネルギー代謝や修復にも関わっており、バランスが崩れると筋肉の減少につながることがわかっています。
2020年に、ブラジルの大規模研究(ELSA-Brasil研究)では、次のようなことが明らかになりました。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)と筋力低下の関係
- TSHの値が 高すぎても、低すぎても、筋力が低下しやすい
- 高齢者では「TSHが高すぎる」「TSHが低すぎる」両方でサルコペニアのリスクが上がる(U字型の関係)
つまり、甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、筋力低下が進む可能性があるということです。
FT3(甲状腺ホルモン)と筋肉量の関係
- FT3(活性型甲状腺ホルモン)が高いと、筋肉量が減りやすい
- 逆に、低すぎても筋力低下と関連がある
「甲状腺ホルモンが元気すぎても、足りなくてもダメ」というのがポイントです。
サルコペニアを防ぐためにできること
1. 甲状腺のチェックを受ける
「体重が急に減った」「疲れやすい」「むくみがひどい」「寒がり・暑がり」
こんな症状がある場合は、甲状腺の検査(血液検査)を受けるのがおすすめです。
甲状腺の異常は自覚しにくいですが、早めに対処することで筋肉の衰えを防ぐことができます。
2. 適度な運動を習慣に
サルコペニア予防には 「歩く・握る・立つ」 という基本動作が大切です。
特に握力が低下すると転倒リスクが上がるため、次のような運動を取り入れてみましょう。
- ゴムボールを握る(テレビを見ながらでもOK!)
- かかと上げ運動(台所で料理をしながらでもできる!)
- 椅子からゆっくり立ち上がる(スクワットの代わりになります)
簡単な動作を毎日続けることで、筋力の低下を防ぐことができます。
3. たんぱく質をしっかり摂る
筋肉を維持するには 肉・魚・卵・豆類などのたんぱく質が不可欠です。
特に、朝食にたんぱく質を取り入れると、1日を元気に過ごしやすくなります。
たとえば、卵1個+ヨーグルト+豆腐や納豆 などを組み合わせると、効率よくたんぱく質を補給できます。
まとめると
- 甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、筋肉が衰えやすくなる
- TSHの値が高すぎても低すぎてもサルコペニアのリスクが増える
- FT3の高すぎ・低すぎも筋肉量に影響
- 甲状腺の異常がないかチェックし、運動・食事で対策を!
当クリニックでは、甲状腺機能のチェックや、サルコペニアの予防・改善に関するご相談も承っています。
「最近、親の歩き方が変わった」「体力が落ちてきた」などの気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
大切なご家族が、いつまでも元気に歩けるように
今からできることを一緒に考えていきましょう。