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高血圧治療は「足し算」ではない *心臓と腎臓を守る、当院の降圧戦略

[2026.06.14]

「ただ下げる」ではなく、臓器を守る血圧治療へ

高血圧治療で大切なことは、単に診察室の血圧を下げることだけではありません。

本当に重要なのは、
脳卒中、心不全、心筋梗塞、腎機能低下を防ぐことです。

そのため当院では、高血圧の患者さんを診るときに、まず次の3つを重視しています。

1つ目は、生活習慣の確認です。
塩分、体重、飲酒、運動、睡眠、ストレスなどは、血圧に大きく関わります。

2つ目は、二次性高血圧の確認です。
特に当院では、原発性アルドステロン症睡眠時無呼吸症候群は積極的に調べます。

この2つは頻度が比較的多く、見つけることで治療方針が大きく変わることがあるからです。

若くして血圧が高い、とか複数の降圧剤を用いているのにコントロールが難しい、といことで当院にご紹介いただきますが、その際に見つかることもあります。


3つ目は、すでに臓器に負担が出ていないかを見ることです。
尿蛋白・アルブミン尿、腎機能、心電図での左室肥大、心エコー所見などを確認します。
血圧は「数字」ですが、その数字の先にあるのは心臓・腎臓・血管のダメージです。

血圧が高い、ということでクリニックに来たのにどうして尿検査?と思われることもありますが、腎臓の状況を確認するのに非常に役立ちます。

 

降圧薬は「どれをどれだけ増やすか」が重要

降圧薬には、それぞれ性格があります。

当院でよく使う薬を、大きく分けると以下のようになります。

 

1. CCB:アムロジピン ニフェジピンCR

血圧はよく下がる。ただし浮腫に注意が必要です。

アムロジピンはカルシウム拮抗薬、いわゆるCCBです。

非常に使いやすく、効果も安定しています。
血圧は用量依存的に下がりやすい薬です。

一方で、用量を増やすほど足のむくみが出やすくなります。

特にアムロジピン10mgでは浮腫が問題になることがあります。

そのため当院では、アムロジピンは非常に信頼している薬ですが、
2.5mgから5mgを中心に使い、10mgにはなるべく安易に進まない
という方針をとっています。
アムロジピン10mgを服用している患者さんでも、できれば減量する機会を診察ごとに検討しています。

 

2. ARB:テルミサルタン、アジルサルタンなど


血圧を下げるだけでなく、腎臓・心臓を守る薬


ARBは、血圧治療の中心になる薬です。

ARBの特徴は、血圧だけを見ると、用量を増やしても降圧効果の伸びが比較的ゆるやかなことです。

報告でも、ARBは全体として用量反応曲線が浅く、増量による追加降圧は限定的とされています。

2倍に増やしても、2倍血圧が下がるわけではありません。


つまり、ARBは

「増やせば増やすほど血圧が劇的に下がる薬」

というより


「一定量でかなり効き、増量では臓器保護を狙う薬」



という考え方をする薬です。


一方で重要なのは、ARBは増量しても副作用による中止率が大きく増えにくいことです。


さらに、蛋白尿・アルブミン尿、左室肥大などの高血圧性臓器障害がある場合、ARBは血圧低下とは別に、腎臓や心臓への保護効果を期待して十分量を使いたい薬です。

そのため当院では、

尿蛋白・アルブミン尿がある患者さん

心電図や心エコーで左室肥大がある患者さん

慢性腎臓病を伴う患者さん

では、ARBを中途半端な量で止めず、可能であれば最大量まで使うことを意識しています。

 

3. サイアザイド系利尿薬:インダパミド

少量でよく効く。増量は慎重に

利尿薬は、食塩感受性の高い高血圧、むくみ傾向のある方、高齢者の高血圧などで非常に有効です。

当院ではインダパミドやヒドロクロロチアジドを使うことがあります。

ただし、サイアザイド系利尿薬は少量で降圧効果がしっかり出る一方、増量すると

低ナトリウム血症
低カリウム血症
尿酸上昇
腎機能への影響

などに注意が必要です。

そのため当院では、インダパミドは
少量で開始、採血を見ながら必要に応じて1mgまで

という使い方を基本にしています。


「下がらないからどんどん増やす」というより、

少量で効かせて、副作用を増やさない

という考え方です。

この薬剤も診察のたびに血圧手帳や生活状況、気温変化、職場環境などを参考に毎回減量が可能かどうか検討しています。



当院では早期から2剤併用を考えます

最近の高血圧治療では、1剤を最大量まで増やしてから次の薬を追加するより、

早い段階から作用機序の異なる薬を少量〜中等量で組み合わせる

考え方が主流になっています。

2024年のESC高血圧ガイドラインでも、多くの高血圧患者さんに対して、初期から2剤少量併用、可能であれば配合剤を用いる方針が推奨されています。

これは理にかなっています。

1剤を無理に増やすと副作用が増えやすい。
しかし、別の系統の薬を組み合わせると、少ない副作用でより確実に血圧を下げられるからです。


 

RAS阻害薬+CCBを中心に治療を行うことが多いです

当院では、基本的に

ARB+アムロジピン

を降圧治療の中心に置いています。

この考え方を支持する有名な試験に、ACCOMPLISH試験があります。

ACCOMPLISH試験では、高リスク高血圧患者において、ACE阻害薬+アムロジピンの組み合わせが、ACE阻害薬+ヒドロクロロチアジドよりも心血管イベントを減らしました。

もちろん、この試験をそのまま全患者さんに機械的に当てはめるわけではありません。

しかし、少なくとも

ARB+CCBは、降圧治療のシンプルで有効あつ安全性の高い基本形である

と考えています。

 

当院の実際の降圧ステップ

当院の2026年における高血圧治療での基本戦略は以下です。

 

Step 1

生活習慣指導+二次性高血圧の確認

まず生活習慣を確認します。
同時に、必要に応じて原発性アルドステロン症、睡眠時無呼吸症候群を調べます。

特に、
薬を飲んでも血圧が下がりにくい
夜間・早朝高血圧がある
いびき・眠気・無呼吸を指摘される
低カリウム血症がある
若年発症または重症高血圧

このような場合は、二次性高血圧を疑います。

 

Step 2

早期からアムロジピン+ARBを併用

アムロジピンを2.5mgまたは5mgで使用し、ARBを組み合わせます。

血圧の微調整は、主にアムロジピン2.5mgと5mgで行います。
アムロジピン10mgは有効ですが、浮腫が増えやすいため、当院ではなるべく慎重に使います。
他院からの紹介で高血圧治療の調整が必要なときには、大抵アムロジピンを減量し、他剤を調整していきます。

 

Step 3

アルブミン尿・左室肥大があればARBは最大量へ

尿アルブミンがA2以上に該当する方。(尿アルブミン/Cr比 30以上  (mg/gCr))
心電図や心エコーで左室肥大がある方。
慢性腎臓病を伴う方。

このような方では、ARBを「血圧を下げる薬」としてだけでなく、
腎臓と心臓を守る薬
として考えます。

そのため、忍容性があればARBは最大量を目指します。
増量による追加の血圧低下は「あればラッキー」くらいの位置づけで、主目的は臓器保護です。

そのため、高血圧の患者さんでは定期的に心エコーや尿検査で心臓や腎臓をしっかり守れているか、治療効果が十分に発揮されているか、更に調整が必要か、あるいは治療を弱めても良さそうか、など都度確認を要します。

 

Step 4

アムロジピン5mg+ARB最大量で不十分ならインダパミド追加

アムロジピン5mg+ARB最大量でも目標に届かない場合、インダパミドを追加します。

その後、Na、K、尿酸、腎機能を確認しながら、必要なら1-2mgまで検討します。
ただし、それ以上の増量は慎重です。

利尿薬は切れ味がよい一方で、増やしすぎると副作用も出やすいからです。
適宜増量・減量を検討しています。

 

Step 5

それでも下がらなければMRAを検討

ガイドライン上は、アムロジピン10mg、インダパミド増量という選択肢もあります。

ただし、浮腫や電解質異常などの副作用が心配な場合、当院では先にMRA、つまりミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の導入を検討することがあります。

特に治療抵抗性高血圧では、アルドステロンの関与が隠れていることもあります。

MRAはその意味でも重要な選択肢です。

もちろん、高カリウム血症や腎機能には十分注意して使います。
血液検査や心電図検査、尿検査などで確認が必要です。


 

Step 6

さらに難しい場合はCCBの変更も検討

それでも血圧が下がらない場合、アムロジピンをニフェジピンCRへ変更することもあります。

ニフェジピンCRは強力な降圧効果を期待できる薬です。
一方で、動悸、顔のほてり、浮腫などには注意が必要です。

ここまで来ると、単純な本態性高血圧ではなく、
二次性高血圧、服薬アドヒアランス、塩分摂取、睡眠時無呼吸、腎血管性高血圧、薬剤性高血圧などを再確認します。

腎血管性高血圧とは、腎動脈に狭窄が起こるために血圧が下がりにくくなる病気です。
腎臓の機能が低下してきていることもあります。
腹部エコーや造影CT検査で評価します。


 

なぜ当院ではテルミサルタンをよく使うのか

当院ではテルミサルタンの使用頻度が非常に多いです。
先日当院に見学に来られた近隣の薬剤師さんからもテルミサルタンの使用が多いですが理由は?と聞かれました。

理由はいくつかあります。

 

1. 半減期が長く、早朝血圧に強い

高血圧で怖いのは、日中の血圧だけではありません。
脳卒中や心血管イベントは、早朝に多いことが知られています。

テルミサルタンはARBの中でも半減期が長く、24時間を通じた血圧管理、特に早朝血圧への効果を期待しやすい薬です。

 

2. 80mgまで使える

テルミサルタンは80mgまで使用できます。

ARBは血圧の下がり方だけでなく、アルブミン尿や腎保護を考えると、十分量を使いたい場面があります。

その点で、テルミサルタン80mgを含む配合剤が使えることは、日常診療では非常に大きな利点です。
上記の話で言えば、アムロジピン5mg とテルミサルタン40mg あるいは80mgの配合剤があります。

1錠で2つの成分が入っているので、内服薬の数が1つ減ります。
1つでも減ると嬉しいです。

 

3. アルブミン尿を伴う患者さんに使いやすい

クリニックレベルの診療でも、アルブミン尿の管理は非常に重要です。

尿蛋白が陽性になる前の段階、つまり微量アルブミン尿の時点で介入できれば、腎臓を守れる可能性があります。

テルミサルタンについては、2型糖尿病性腎症におけるINNOVATION試験で、微量アルブミン尿から顕性蛋白尿への進行抑制が検討されています。

当院では、A2以上のアルブミン尿がある患者さんでは、ARBをしっかり使うことを重視しています。
保険診療においては糖尿病があるときだけ、この微量アルブミン尿の測定が許されております。
腎臓病の予防治療の世界で有名なKDIGOガイドライン というものがありまして、その中では高血圧は腎臓病のリスクなので早期からこの微量アルブミン尿を測定するように記載されています。ですが日本の保険診療のルールに則って当院では運用しています。

 

当院の考え方

高血圧治療は、薬を増やせばよいというものではありません。

薬にはそれぞれ得意・不得意があります。

アムロジピンは血圧をしっかり下げる。
ただし10mgでは浮腫に注意する。

ARBは血圧の追加降圧はゆるやか。
しかし腎臓・心臓を守る目的で十分量を使いたい。

インダパミドは少量でよく効く。
ただし増量による副作用には注意する。

MRAは治療抵抗性高血圧で重要。
ただし腎機能とカリウムを見ながら慎重に使う。

このように、薬の性格を理解しながら組み合わせることが大切です。

 

血圧治療のゴールは血圧数字を良くすることだけではないです。臓器を守り続けられるか、です。

血圧は、今日少し高い、だけでは症状がないことが多いです。

しかし、高い血圧が何年も続くと、心臓、腎臓、脳、血管に少しずつ負担が蓄積します。

左室肥大。
心房細動。
心不全。
慢性腎臓病。
脳卒中。
心筋梗塞。

これらは、ある日突然起こるように見えて、実は長い時間をかけて準備されている、とも言えます。
私が病院で心臓や血管の治療を行っているときによく感じていたことです。
患者さんから見れば、脳梗塞や心筋梗塞はある日突然の出来事です。

でも、血管や臓器から見れば、毎日毎日積み重なった血圧による負担に耐えきれなくなって初めて症状として現れたものです。



だからこそ当院では、血圧をただ下げるだけではなく、

臓器障害を見つけること
二次性高血圧を見逃さないこと
薬の特性を踏まえて、無理なく長く続けられる治療にすること

を大切にしています。

高血圧治療は、薬の数を増やす治療ではありません。
心臓、腎臓、脳、血管を守るための、長期戦略です。

戸頃循環器内科クリニックでは、患者さん一人ひとりの血圧のタイプ、合併症、腎機能、尿所見、心電図・心エコー所見を見ながら、最適な降圧治療を一緒に考えていきます。

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