脂質管理の次の一手を考える
コレステロール値が高いと言われて、スタチンを飲み始めたという方は多いと思います。
あるいは、すでに狭心症、心筋梗塞、脳梗塞の治療中のかたも。
確かに、スタチンは心筋梗塞や脳梗塞を防ぐための中心的な薬であり、20年以上にわたって世界中で使われてきた安全性と効果の高い治療法です。
スタチン飲んでおけば安心、と言われる先生もいます。
しかし。
その「スタチン一辺倒」の脂質治療に対して、再考を促す論文が発表されました。
アメリカの脂質研究者チーム(Spitzら)による論文「スタチン後時代における脂質管理の批判的検討」を読みつつ
私たちが日常診療でどう活かせるかを考えてみたいと思います。
Jared Spitz, JACC Adv. 2025;4(6):101823.
論文の主張:「ガイドラインに従うだけでは不十分かもしれない」
この論文では、米国(ACC/AHA)、欧州(ESC)、カナダ(CCS)の主要ガイドラインのアプローチを比較し、単に「スタチンを出す」だけでは見逃されがちな、より繊細で本質的なリスク管理のあり方を示しています。
とくに印象的なのは以下の3点です
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LDL-Cの“数字”だけでは不十分
→ 同じLDLでも「粒の数(ApoB)」や「質(Lp(a))」によってリスクは変わる。 -
サブクリニカル(まだ症状の出ていない)動脈硬化の把握
→ 冠動脈CTによるカルシウムスコア(CACスコア)が重要。 -
患者の背景に応じた個別化治療の重要性
→ たとえば妊娠希望のFH女性や、アジア系のようにリスクが過小評価されやすい人種背景。
誰の、何を、どう見ていくか。
採血データのみならず、実際の冠動脈の石灰化を把握することでリスク管理ができる、という話です。
教訓は、見えないリスクを見える化せよ
この論文から得られる最も重要なメッセージとして
「見えないリスクを見える化する力」が医師にも患者にも求められているということです。
何のことを言っているのでしょうか。
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LDLは100未満であっても、ApoBが高ければ動脈硬化リスクは残る。
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LDLは正常でも、Lp(a)が高ければ、心筋梗塞や弁膜症のリスクが高まる。
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症状がなくても、CACスコア300以上なら心血管イベントの高リスク。
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若い人や女性、糖尿病のある方などは、「数字の罠」でリスクを見逃されやすい。
つまり、「スタチンを飲んでいればOK」という時代の向こう側にきている、ということです。
戸頃循環器内科クリニックでの取り組み
私たちのクリニックでは、こうした最新知見を日常診療に活かすために、次のような取り組みを行っています
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ApoB・Lp(a)の測定:リスクの“質”と“粒子の数”に着目した新しい脂質評価
心臓ドックで測定を行うようにしています。
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冠動脈CTによるCACスコアの評価:動脈硬化の“見える化”
造影剤を使用せず、少ない被ばくで冠動脈の状態が把握可能です。
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固定用量配合剤(スタチン+エゼチミブ)の活用:服薬継続率の向上と副作用軽減
続けることで価値が出ます。
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スタチン不耐症への柔軟な対応:PCSK9阻害薬などの選択肢も提示
様々な方法があります。
また、近くコレステロール低下薬も更に研究が進んでおり、選択肢が増える日が近づいています。
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個別リスクに応じたコレステロール目標値の設定
一律ではなく 自分仕様の治療へ
脂質管理は「続けること」「深めること」
脂質治療のゴールは単に数字を下げることではありません。
それは、血管を長く、強く、しなやかに保つこと。
そして、心筋梗塞や脳梗塞という“ある日突然”の不幸を未然に防ぐことです。
薬が全てではありません。
しっかり、患者さんと話していき、どう考えているか、どう考えていくか。
どっちが正しいとか間違っているという話ではありません。
何を大事に考えているか、どうなっていきたいのか、どうしていきたいのか、ということです。
薬を用いず、食事運動だけでどうにかしていこうという考えもあります。
その時重要なのは、見えていないリスクも見える化すると、食事運動だけでどうにかなるものかどうかの見通しも立てられる、ということでもあります。
紹介した論文でも、しっかり話して、リスクをしっかり評価して、生活習慣管理から治療薬を組み合わせて行くのがいい、ということを言っています。
スタチンという「第一歩」だけでなく、ApoB・Lp(a)・冠動脈石灰化スコア CACなどの情報を加えた「次の一手」を考えることが大切です。
脂質管理は「継続」と「深化」が命です。
あなたの10年後、20年後の健康のために、ぜひ一緒に取り組んでいきましょう。
