肥満と心不全がある患者さんの治療について
心不全にはいくつかの分類方法があります。
代表的なものに、左室駆出率 LVEF でわける方法があります。
心臓のポンプ機能をざっくり表現した数字です。
基準値はだいたい50%以上、という事になっています。
ポンプの能力が保たれているのに、心不全になっている、という状態があります。
それを、左室駆出率の保たれた心不全、と分類します。
長いので、HFpEF へふぺふ、 といいます。
ぎゃくに左室駆出率の低下した心不全は、HFrEF へふれふ、と呼びます。
専門用語なので、聞き流す程度のことです。
この保たれれた方の心不全、はなぜそんな事が起こるのか?
今日は、肥満を伴う心不全の患者さんの症状の話です。
まずは、ざっくりと。
太ってて、苦しいのなら、痩せればいいじゃない、と直感が働きます。
答えは、Yes です。
さらに。
痩せ薬で痩せたら、心不全は良くなるの? が次の疑問になります。
痩せ薬、といえば何種類かありますが、世界的に評価を得てきている薬剤があります。
という注射薬です。
2024年11月16日にこのチルゼパチドを用いた研究の結果が報告されました。
SUMMIT Trial サミットトライアルと呼ばれています。
誰に?;左室駆出率が50%以上の心不全と肥満(BMI 30以上)の患者さんに
何をした?; ティルゼパチド(最大15mgを週1回皮下注射)を注射すると
何と比べて?; プラセボ(なんの効果もないもの)と比べて
どうなった?: 心血管死または心不全悪化イベントの発生率が減った。
1年での心不全症状が良くなった。
消化器系の副作用によりティルゼパチドの投与が中止になった患者さんが多かった。
ということが報告されました。
この表は、心血管死と心不全が悪くなったかたの人数の時間経過を表しています。
いくつかのことがわかります。
薬剤開始して、24週目、半年頃からプラセボと差がつき始めている。
>即効性はなく、少なくとも6ヶ月以上継続することが必要である。
長く続けることで、その効果の差が広がっているように見える。
>プラセボはトラブルが増え続けているように見えるが、ティルゼパチドでは増加が止まっているようにみえてくる。
実際、計算すると、ティルゼパチドを用いると、心臓血管死・心不全増悪のリスクが 38%低下しています。
体重はどうだったのかというと
1ヶ月目には数%の体重が減りはじめ、3−4ヶ月目には体重が10%減っています。
その後も体重が減る傾向は続き、1年後には15%の体重低下を認めます。
体重が80kgの方が、1年で70kgを下回っている状態です。
次は運動能力の比較です。
6分間歩行;一定時間で歩ける距離の比較=どれくらい運動できるか?
の比較です。
すでに半年目には 運動できる距離にしっかり差がみられます。
よく動けるようになってきている、ということです。
体重が重いと、なかなか運動はしんどく、歩ける距離にも限界がありますが、早く動けるようになっているということです。
結果、心不全の入院も減っています。
動けるようになったからか、心臓を守る力が薬にあったのか、はさておき、こういった治療が心不全が悪くなることを予防できた、ということになります。
こういった論文を考えるときに重要なのは、
誰にこういった治療を行うと得られるメリットデメリットが有るのか、ということです。
今回は、BMI 30を超えた肥満の方で、心不全とくにHFpEFと診断された方においては、ということが大切です。
実際に患者さんにこういうデータを参考に治療を行っていくわけですが、これはあくまで研究であり、眼の前の患者さんにおいても結果が保証されているわけではありません。
副作用が出てくる可能性もあります。
安全性をしっかり確認したうえで、有効性をどう引き出すか、それによって安全に治療を提供できるかが重要です。
また、長く続けることが必要だとして、そのサポートをしていくことも大事です。
正解は一つではないことがほとんどです。
こういった治療の選択肢の可能性も出てきているということ。
日本では今後こういった研究の成果を踏まえて、保険償還され、保険診療で治療を受けられる日が来るかもしれません。
言うまでもなく、食事管理や運動管理もとても重要です。
戸頃循環器内科クリニックでは、心不全の治療を行っています。
最新の研究成果を踏まえて、クリニック一丸となり患者さんと向き合い、またそのご家族様など関わる方々との連携が大事です。
薬でも、細かい調整が必要だったり、エコーや血液検査、レントゲンなどが必要になりますが、患者さんが自分らしく生活していくことがなにより大事と思っています。
冷え込む毎日ですが、暖かい格好しての散歩も楽しいです。
体調管理に気をつけてお過ごしください。