CKM症候群 糖尿病・腎臓病・心臓病を一緒に見る時代
CKM症候群という新しい考え方
「糖尿病は内分泌内科」
「腎臓病は腎臓内科」
「心臓病は循環器内科」
これまで医療は、臓器ごと、専門科ごとに分かれて発展してきました。
もちろん、それぞれの専門性はとても大切です。
糖尿病には糖尿病の専門治療があり、腎臓病には腎臓病の専門治療があり、心臓病には心臓病の専門治療があります。
しかし、実際の患者さんを診ていると、病気はそんなにきれいに分かれていません。
血糖が高い方に、腎機能低下が見つかる。
腎臓が悪い方に、心不全が起こる。
高血圧、肥満、脂質異常症、糖尿病が重なり、いつの間にか心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高くなっている。
つまり、体の中では
「糖尿病」
「腎臓病」
「心臓病」
「肥満」
「高血圧」
「脂質異常症」
が、別々ではなく、ひとつの流れとしてつながっています。
この考え方を整理したものが、近年注目されている
CKM症候群
です。
CKMとは、
Cardiovascular:心血管
Kidney:腎臓
Metabolic:代謝
の頭文字です。
日本語で言えば、
心臓・腎臓・代謝の連関症候群
と考えるとわかりやすいかもしれません。
CKM症候群とは何か
CKM症候群は、肥満、2型糖尿病、慢性腎臓病、心血管疾患が互いに影響し合いながら進行していく病態です。
たとえば、肥満や内臓脂肪が増えると、インスリン抵抗性が高まり、血糖が上がりやすくなります。
血糖や血圧が高い状態が続くと、腎臓の細い血管に負担がかかります。
腎臓の機能が低下すると、塩分や水分の調整が難しくなり、血圧が上がり、心臓にも負担がかかります。
そして、心臓に負担がかかると、心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈、脳卒中などのリスクが上がります。
つまり、CKM症候群は
「ひとつの臓器の病気」
ではありません。
全身の代謝・血管・腎臓・心臓が、連鎖的に悪くなっていく状態
です。
ここで大切なのは、症状が出てから対応するのでは遅いことがある、という点です。
腎臓病はかなり進行するまで症状が出にくい病気です。
心不全も、初期には「少し疲れやすい」「階段で息切れする」程度のことがあります。
糖尿病も、血糖が高いだけでは痛くもかゆくもありません。
しかし、症状がなくても、体の中では血管や臓器への負担が進んでいることがあります。
今年、2026年にアメリカ心臓病学会からこの、CKM症候群のガイドラインが出ました。
このガイドラインは、2013年の「成人の過体重・肥満管理ガイドライン」を置き換えるだけでなく、肥満や2型糖尿病といった代謝異常、慢性腎臓病、心血管疾患を一体として捉える内容へと大きく発展しています。
なぜ循環器内科でCKM症候群を考えるのか
循環器内科は、心臓と血管を診る診療科です。
しかし、心臓だけを見ていても、心臓病の予防や治療は十分ではありません。
心筋梗塞を防ぐには、血圧、脂質、血糖、喫煙、肥満、腎機能を一緒に見なければなりません。
心不全を防ぐには、腎臓の状態、糖尿病、睡眠時無呼吸、貧血、鉄欠乏、体重管理も重要です。
腎臓を守るには、血圧管理、糖尿病管理、心不全予防が必要です。
心臓と腎臓と代謝は、一本の糸でつながっています。
その糸のどこかが強く引っ張られると、別の場所にも負担がかかります。
たとえば、腎臓が悪くなると心臓が悪くなる。
心臓が悪くなると腎臓が悪くなる。
糖尿病や肥満があると、その両方を悪化させる。
これがCKM症候群の本質です。
CKM症候群では「ステージ」で考える
CKM症候群では、病気を0から4までのステージで整理します。
Stage 0
リスク因子がない状態です。
体重、血糖、血圧、脂質、腎機能などが良好に保たれている段階です。
Stage 1
過体重、肥満、内臓脂肪の蓄積、前糖尿病などがある段階です。
まだ明らかな糖尿病や腎臓病、心臓病ではなくても、将来のリスクが始まっている状態です。
Stage 2
高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、慢性腎臓病などが出てくる段階です。
この段階から、腎臓や心臓への負担を意識した治療がより重要になります。
Stage 3
まだ症状ははっきりしないものの、心臓や血管に異常が出始めている段階です。
冠動脈石灰化、心不全の前段階を示すBNP・NT-proBNPの上昇、心筋障害を示す心筋トロポニンなどが評価に使われることがあります。
Stage 4
心筋梗塞、狭心症、心不全、脳卒中、末梢動脈疾患など、臨床的な心血管疾患を発症している段階です。
腎不全や透析の有無によって、さらに細かく分類されます。
このステージ分類のよいところは、病気を「ある・ない」だけで見ないことです。
今どの段階にいるのか。
次の段階に進ませないために何をするべきか。
心臓、腎臓、代謝をまとめて考えることができます。
検査で大切なのは、血糖だけでも、腎機能だけでもない
糖尿病の管理ではHbA1cが大切です。
腎臓の管理ではeGFRが大切です。
心臓の管理では心電図、心エコー、NTpro BNP 胸部レントゲンなどが大切です。
しかしCKM症候群では、それらをバラバラに見るのではなく、組み合わせて評価します。
特に重要なのが、
eGFR
尿アルブミン・尿蛋白
血圧
脂質
HbA1c・血糖
体重・腹囲
BNP・NT-proBNP
心電図・心エコー
冠動脈石灰化や動脈硬化の評価
です。
ここで見落とされやすいのが、尿アルブミンです。
血液検査のeGFRがまだ大きく悪くなくても、尿に微量のアルブミンが出ている場合、腎臓や血管の負担が始まっている可能性があります。
尿アルブミンは、腎臓だけでなく、全身の血管リスクを映すサインでもあります。
「血糖は少し高いだけ」
「腎機能は年齢相応」
「血圧は家ではそこまで高くない」
そう見えても、尿アルブミン、NT pro BNP、心エコー、動脈硬化評価(冠動脈石灰化スコアや頸動脈エコーでのプラークなど)を合わせると、隠れたリスクが見えてくることがあります。
治療の考え方も変わってきた
以前は、糖尿病の薬は血糖を下げる薬、血圧の薬は血圧を下げる薬、脂質の薬はコレステロールを下げる薬、という考え方が中心でした。
もちろん、それは今でも重要です。
しかし現在は、薬を
数値を下げる薬
としてだけでなく、
臓器を守る薬
として考える時代になっています。
たとえば、SGLT2阻害薬は血糖を下げる薬として登場しましたが、現在では心不全や慢性腎臓病の治療でも非常に重要な薬です。
GLP-1受容体作動薬も、血糖や体重に対する効果だけでなく、心血管リスク低減や肥満管理の面から注目されています。
ARBやACE阻害薬などのRAS阻害薬は、血圧を下げるだけでなく、蛋白尿を減らし、腎臓や心臓を守る目的でも使われます。
フィネレノンのような薬剤も、糖尿病性腎臓病や心血管リスクの観点から重要性が増しています。
つまり、CKM症候群では
血糖だけを見るのではなく、腎臓を守る
血圧だけを見るのではなく、心臓血管を守る
体重だけを見るのではなく、将来の心不全や心筋梗塞を防ぐ
という発想が必要になります。
心不全とCKM症候群
CKM症候群を考えるうえで、心不全は非常に重要です。
心不全は、心臓のポンプ機能や拡張機能が低下し、息切れ、むくみ、疲れやすさなどが出る病気です。
しかし、心不全は突然発症するだけではありません。
長い時間をかけて、少しずつ準備されていく病気でもあります。
高血圧が続く。
糖尿病がある。
腎機能が低下する。
肥満がある。
睡眠時無呼吸がある。
心房細動がある。
貧血や鉄欠乏がある。
こうした要素が積み重なると、心臓は少しずつ硬くなったり、負担に弱くなったりします。
特に高齢者や女性では、心臓の収縮力が保たれていても心不全になることがあります。
これをHFpEF(ヘフペフ)、つまり左室駆出率が保たれた心不全と呼びます。
HFpEFでは、高血圧、肥満、糖尿病、腎臓病が深く関係します。
まさにCKM症候群の代表的な結末のひとつです。
フィネレノンやSGLT2阻害薬はこのHFpEF治療での有効性が確認されています。
「心臓の動きは悪くないと言われたから大丈夫」
とは限りません。
息切れ、むくみ、BNP上昇、左房拡大、左室肥大、腎機能低下などを総合的に見る必要があります。
CKM症候群で大切なのは、早く見つけて、早く治療していくこと
CKM症候群は、進行してから治療するよりも、早い段階で見つけて治療することが大切です。
体重が増えた。
血圧が少し高い。
HbA1cが境界型と言われた。
中性脂肪が高い。
尿蛋白や尿アルブミンを指摘された。
eGFRが低めと言われた。
BNPが少し高い。
心電図で左室肥大や不整脈を指摘された。
心エコーで左房拡大や心肥大を指摘された。
これらは、それぞれ単独では「少し様子を見ましょう」と言われることもあります。
しかし、複数重なると意味が変わります。
ひとつひとつは小さなサインでも、合わせて見ると、将来の心不全、心筋梗塞、脳卒中、腎不全につながる道筋が見えてくることがあります。
CKM症候群の考え方は、その道筋を早めに見つけるための地図です。
当院で大切にしていること
戸頃循環器内科クリニックでは、心臓だけでなく、血圧、脂質、糖代謝、腎機能、睡眠時無呼吸、体重、動脈硬化を含めて、全身のリスクを総合的に評価することを大切にしています。
循環器内科だから心臓だけを見る、という時代ではありません。
心臓病を防ぐためには、腎臓を守る必要があります。
腎臓を守るためには、血圧や糖尿病を整える必要があります。
糖尿病を管理するためには、体重、食事、運動、睡眠、脂肪肝、動脈硬化まで見る必要があります。
そして、これらはすべて患者さんの日常生活とつながっています。
先程の話でいえば。。。
体重が増えた。
>筋肉量は?脂肪量は?運動習慣は?むくみは?
血圧が少し高い。
>血圧手帳ではどうか?睡眠状態は?ストレスは?運動習慣は?
HbA1cが境界型と言われた。
>75gOGTT検査で将来の糖尿リスクの評価、あるいはどういう点を気をつければ糖尿病になるのを防げそうか?
中性脂肪が高い。
>食事量・内容・食事環境・生活環境は?
尿蛋白や尿アルブミンを指摘された。
>微量アルブミン尿はどうか。血圧値はどうか。腎臓機能はどうか。
eGFRが低めと言われた。
>低下していく速度はどうか。治療を早く始めて長く続けていくこと重要であることが共有できているか。
BNPが少し高い。
>心エコーやCT 特に冠動脈石灰化(カルシウムスコア)、不整脈が隠れている可能性など
心電図で左室肥大や不整脈を指摘された。
>血圧の状況、心不全の合併、特別な治療が必要かどうか
心エコーで左房拡大や心肥大を指摘された。
>原因を調べたり、3−6ヶ月後での変化はどうか
書ききれない無数の注意点や確認点があります。
眼の前の患者さんごとに、注目点は様々です。
薬を出して終わりではありません。
検査をして終わりでもありません。
今の状態を一緒に確認し、どこにリスクがあり、何を優先して整えるべきかを考える。
それがCKM症候群の診療です。
CKM症候群は、糖尿病、腎臓病、心臓病を別々に見るのではなく、ひとつのつながった病態として考える新しい診療の枠組みです。
肥満、血糖、血圧、脂質、腎機能、尿アルブミン、心機能、動脈硬化。
これらを総合的に見ることで、心不全、心筋梗塞、脳卒中、腎不全をより早い段階で予防できる可能性があります。
これからの医療では、
「糖尿病だから糖尿病だけ」
「腎臓だから腎臓だけ」
「心臓だから心臓だけ」
ではなく、
心臓・腎臓・代謝をまとめて診る力
がますます重要になります。
CKM症候群は、言葉遊びではありません。
病院ではなく、クリニックこそが強く意識すべき考え方です。
将来の心臓病、腎臓病、脳卒中を防ぐために、今の体のサインをどう読み解くか。
これからの診療では、「血圧だけを見る」「血糖だけを見る」「腎機能だけを見る」のではなく、心臓・腎臓・代謝を一つの連続した病態として評価する視点が、ますます重要になります。
