痛み止めと胃薬の選択に気を使う
当院では、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患のみならず、頸動脈狭窄や下肢閉塞性動脈硬化症といった動脈硬化性疾患の診療にも力を入れております。
これらの疾患の治療においては、血栓予防のために抗血小板薬であるアスピリン、クロピドグレル(プラビックス)、プラスグレル(エフィエント)などを使用することが一般的です。
しかし、抗血小板薬の使用は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化管出血のリスクを高める可能性があります。
いわゆる、サラサラ薬は血が止まりくくなる、という話です。
このリスクを軽減するために、プロトンポンプインヒビター(PPI)であるランソプラゾールやタケキャブ(ボノプラザン)などの胃薬を併用することが多いです。
しかし、最近の研究では、PPIの長期使用が小腸内の細菌増殖や腸内細菌叢の乱れを引き起こす可能性が報告されています。
特に、NSAIDsと言うジャンル消炎鎮痛剤(ロキソニン、ボルタレンなど) いわゆる痛み止めについてです。
このNSAIDとPPIの併用が小腸傷害を悪化させる可能性が示唆されています。
また、PPIとNSAIDの併用により下部消化管出血のリスクが増加するとの報告もあります。
Gut Liver. Published online January 3, 2025
一方で、ムコスタ(レバミピド)などの粘膜保護薬は、NSAIDによる小腸傷害の予防に有効である可能性が示されています。
足腰が痛い、頭痛がある、ということで、循環器内科の病気で治療されている方が痛み止めを飲むと、消化管出血する可能性が増加するかも、という話です。
論文中で、それはなぜか?ということが考えれています。
1.NSAIDsは腸管バリア機能の破壊、腸内細菌叢の乱れ、細菌の移行を引き起こす可能性がある
2.PPIは長期使用により小腸での細菌増殖や腸内細菌叢の乱れを引き起こす可能性があり、これがNSAID誘発性腸症を悪化させる可能性がある
3. 動物実験では、PPIが腸内細菌叢の乱れを引き起こし、小腸障害を悪化させる可能性が示されている
対処として考えるべき手立てとしては、
#1 NSAIDsの中でも、そもそも消化管出血のリスクが少ないタイプの薬をつかう。
当院では、セレコックス(セレコキシブ)を用いたり、最近ではジクトルテープという貼り薬を選ぶことが多いです。
とくにこのジクトルというテープ製剤は、身体のどこに貼っても、どこの痛みにも効くという利点があります。
風呂上がりに貼っておけば、翌日の入浴前までずっと効果が続き、剥がして入浴。
風呂上がりにまた貼る、を繰り返します。
#2 NSAIDを使うときには、ムコスタ(レバミピド)を併用する。
後発品もあり値段も安く、併用しやすいです。
#3 大腸憩室や大腸炎など、消化管出血のリスクや既往がある人には特に注意する。
#4 腸内細菌は乳酸菌含め、複雑なバランスで成り立っているため、普段からサプリや食事などから摂取をしておく
などになります。
当院では、痛み止め一つにしても、最新の研究結果を踏まえて患者さん一人ひとりのリスクとベネフィットを慎重に評価し、最適な治療法を提供してまいります。