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塩と鉄

[2026.05.31]

塩は控えめに、鉄は不足させない

日本の食卓には、昔から体によいとされてきた食べ物がたくさんあります。梅干しも、そのひとつ。

食欲がないときに梅干し。

暑い日に梅干しを入れたお茶やお湯を一杯。

おにぎりの真ん中にある梅干しを見ると、何故か安心したりします。

梅の酸味には、食事をさっぱりさせ、食欲を助ける力があります。

一方で、循環器内科の視点から見ると、梅干しにはもうひとつ大切な側面があります。

それは、塩分が多い食品であるということです。

心不全では、塩分は「水を呼ぶ」

心不全の患者さんでは、塩分の摂りすぎに注意が必要です。

塩分を多く摂ると、体はその濃度を調整するために水分をため込みやすくなります。

その結果、血液量が増え、心臓に戻ってくる血液も増えます。

健康な心臓であればある程度対応できますが、心不全では心臓のポンプ機能に余裕が少なくなっています。

そこに余分な水分が加わると、心臓に負担がかかります。

その結果として、

足がむくむ
体重が急に増える
息切れが強くなる
夜に横になると苦しい
肺に水がたまりやすくなる

といった症状につながることがあります。

梅干し1個は小さく見えます。

しかし、塩分として考えると、普通の梅干しで 2g くらいの塩分です。

もちろん、梅干しを完全に禁止する必要はありません。

大切なのは、食べ方と量のバランスです。

梅干しを食べる日は、味噌汁を少なめにする。

漬物を重ねない。

麺類の汁を飲み干さない。

醤油をかけすぎない。

こうした小さな調整が、美味しいものを長く楽しめることにつながります。

 

「減塩」は、味気ない食事ではない

減塩というと、「おいしくない食事を我慢すること」と感じる方もいます。

しかし、本当の減塩は、味をなくすことではありません。

むしろ、酸味、香り、出汁、薬味を上手に使うことで、塩分を減らしても満足感のある食事にすることができます。

梅の酸味も、その工夫のひとつです。

梅干しそのものは塩分が多いため量には注意が必要です。

でも。

梅肉を少量だけ使って、和え物や蒸し鶏、野菜に風味をつける。

レモン、酢、しそ、しょうが、みょうが、だしを使う。

こうした工夫は、心臓にやさしい食事づくりに役立ちます。

つまり梅は、

塩分を摂りすぎる食品にもなり得るし、塩分を減らす工夫にもなり得る

ということです。

ここが面白いところです。

心臓病では「鉄不足」があることも。

一方で、心臓病の食事を考えるとき、塩分だけを見ていては不十分です。

最近、心不全診療で特に重要視されているのが、鉄不足です。

鉄というと、多くの方は「貧血」を思い浮かべると思います。

もちろん鉄は、赤血球のヘモグロビンを作るために必要です。

ヘモグロビンは、全身に酸素を運ぶ大切な役割を持っています。

しかし鉄の役割は、それだけではありません。

鉄は、心臓や筋肉がエネルギーを作るためにも関わっています。

体の細胞の中にはミトコンドリアというエネルギー工場がありますが、鉄はその働きにも関係しています。

そのため鉄が不足すると、たとえ明らかな貧血がなくても、

疲れやすい

階段で息切れする

歩く距離が短くなる

動悸を感じやすい

体力が落ちたように感じる

といった症状につながることがあります。

心不全では「貧血なしの鉄欠乏」がある

ここが非常に大切です。

一般的には、血液検査でヘモグロビンが正常であれば「貧血はありません」と言えます。

それ自体は間違いではありません。

しかし心不全では、ヘモグロビンが正常でも、体の中で使える鉄が不足していることがあります。

これを見逃すと、

「貧血ではないのに、なぜこんなに疲れるのか」

「心臓の数値はそこまで悪くないのに、なぜ息切れするのか」

という問題が残ってしまいます。

鉄の状態を見るには、ヘモグロビンだけでなく フェリチンTSATという指標も参考にします。

ティーサット と呼んでます。

 

たとえるなら、


ヘモグロビンは、酸素を運ぶトラック

フェリチンは、鉄の倉庫

TSATは、今すぐ使える鉄の流通量

のようなものです。

トラックの数がまだ保たれていても、燃料や部品が不足していれば、十分な働きはできません。

心不全における鉄欠乏は、まさにそのような状態です。


塩は多すぎると困る。鉄は足りないと困る。

心臓病の食事では、この考え方が大事です。

塩分は、多すぎると体に水分をため込み、心臓に負担をかけます。

鉄分は、足りないと酸素を運ぶ力やエネルギーを作る力が落ち、心臓や筋肉が疲れやすくなります。

つまり心臓を守る食事とは、単に「あれもダメ、これもダメ」と制限することではありません。

余分な塩分は控える。
必要な鉄分は不足させない。

このバランス感覚、ですね。

 

鉄瓶について

鉄瓶でお湯を沸かすと、条件によっては微量の鉄が湯に溶け出すことがあります。

また、梅やレモンのような酸味があると、鉄が溶け出しやすくなることがあります。

昔ながらの道具や食文化には、現代の医学から見ても興味深い面があります。

ただし、鉄瓶や梅だけで医学的な鉄欠乏を治療できるわけではありません。

鉄欠乏が疑われる場合には、血液検査で状態を確認し、必要に応じて食事指導、鉄剤の内服、場合によっては専門的な治療を考える必要があります。

特に成人男性や閉経後の女性で鉄不足がある場合には、胃腸からの出血、胃や大腸の病気、胃切除後の吸収低下、腎機能低下、慢性炎症などが隠れていないかを確認することも大切です。

梅干しを悪者ではない

梅干しは、決して悪い食品ではありません。

むしろ、日本の食文化の中で長く親しまれてきた、魅力のある食品です。

問題は、梅干しそのものではなく、塩分が重なることです。

梅干し
味噌汁
漬物
醤油
麺類の汁
加工食品
外食

これらが重なると、気づかないうちに塩分量が増えてしまいます。

心不全や高血圧のある方は、梅干しを食べるなら「今日は他の塩分を少し控えよう」と考えるだけでも十分意味があります。

 

帳尻を合わせる、ということですね。

 

禁止ではなく、調整。
我慢ではなく、工夫。
これが長く続けられる食事療法です。

 

 

心臓病や高血圧の食事では、塩分を控えることがよく強調されます。

それはとても大切です。

しかし同時に、鉄不足にも目を向ける必要があります。

塩分が多すぎると、心臓に水分の負担がかかります。

鉄分が不足すると、心臓や筋肉がエネルギーを作りにくくなります。

梅干しと鉄瓶を眺めていると、心臓を守る食事とは、何かを極端に避けることではなく、体に必要なものと負担になるもののバランスを整えることなのだと感じます。

戸頃循環器内科クリニックでは、血圧、心不全、貧血、鉄欠乏、腎機能、睡眠時無呼吸、生活習慣まで含めて、心臓にかかる負担を総合的に考えていきます。

「最近疲れやすい」
「息切れが気になる」
「むくみや体重増加がある」
「貧血ではないと言われたが、だるさが続く」

そのような症状がある方は、血圧や心臓だけでなく、鉄の状態も一度確認してみる価値があります。

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