喘息と風邪
喘息の治療は、この10年ほどで大きく変わりました。
以前は「発作が出たら気管支を広げる薬を吸う」が当たり前でした。
しかし現在では、「発作が出た時こそ炎症を抑える治療が重要」という考え方へ大きく転換しています。
多くの臨床研究によって追求されていき、世界中の喘息診療を変えました。
喘息は「気管支が狭くなる病気」ではない
昔は喘息を
「気管支が収縮して苦しくなる病気」
と考えていました。
そのため、治療の中心は
気管支を広げる薬(気管支拡張薬)
でした。
代表的なのが
メプチンエアー
サルタノールインヘラー
などのSABA(短時間作用型β2刺激薬)です。
吸入すると数分で楽になるため、多くの患者さんが「発作の薬」として使用していました。
喘息の本当の原因は「炎症」
その後の研究で分かってきたことがあります。
喘息患者さんの気管支では
好酸球
Tリンパ球
肥満細胞
などによる慢性的な炎症が続いています。
つまり
発作は炎症の結果として起こっている
ということです。
SABAだけでは死亡率が高くなることも判明
1980~1990年代になると、
SABAだけを頻回に使う患者さんほど
救急受診
入院
喘息死
が多いことが世界各国で報告されました。
もちろんSABAが悪い薬なのではありません。
問題は
炎症を放置したまま気管支だけ広げ続けた
ことです。
症状は楽になります。
そのため「治った!」と勘違いし、
炎症はどんどん悪化していく方が増えていきました。
吸入ステロイド(ICS)の登場
そこで登場したのが
吸入ステロイド(ICS)
です。
代表的な薬は
パルミコート
フルタイド
などです。
吸入ステロイドは炎症そのものを抑えます。
その結果
発作減少
入院減少
喘息死亡減少
が次々と証明されました。
ここから喘息治療は
「炎症を抑える」
時代へ変わりました。
しかし新たな問題が…
患者さんは
毎日ICSを吸入しなければいけません。
ところが
症状がない日は
「今日はいいかな」
となりやすい。
症状ないですからね。
そして風邪をひくと突然悪化してしまいます。
世界中の研究者が考えたこと
では
発作が起きた時に一緒にステロイドも吸えばいいのでは??
この発想から生まれたのが
SMART療法
現在では
MART療法
と呼ばれる治療法です。
MART療法とは?
使用する薬は
シムビコート(後発品はブデホル)
です。
シムビコートには
ブデソニド(吸入ステロイド)
ホルモテロール(気管支拡張薬)
が1本に入っています。
つまり
普段もシムビコート
苦しい時もシムビコート
なのです。
発作時には
気管支を広げながら
同時に炎症も治療できます。
この考え方を証明した有名な研究
2011年、European Respiratory Journalに掲載された研究があります。
Reddelらの研究では約12,500人を解析しました。
比較したのは
【従来治療】
シムビコートを毎日吸う
発作時はメプチンやサルタノール
と
【MART療法】
シムビコートを毎日吸う
発作時もシムビコート
です。
結果は驚くべきものでした。
まず、第一に、風邪そのものを予防することはできませんでした。
うがい手洗いは大事です。
しかし
風邪による重症喘息増悪は約52%減少
したのです。
つまり
発作時に吸入ステロイドを追加することが重症化を防いでいました。
世界のガイドラインが変わる
このような研究が積み重なり、世界の喘息診療は大きく変わりました。
現在、世界で最も信頼されている喘息ガイドラインである
GINA(Global Initiative for Asthma)
では、
軽症喘息であっても
SABAだけを使用する治療は推奨されなくなりました。
現在の基本的な考え方は
症状が出た時にも吸入ステロイドを取り入れる
ことです。
中等症以上では
MART療法が第一選択として推奨されています。
先程のGINAは 毎年更新されています。
治療が年々進化し洗練されている、とも言えます。
日本のガイドラインもかなり影響を受けていて、後追いしてるとも言えます。
テリルジーはどう違う?
最近色々なクリニックでよく使用される
テリルジーは
フルチカゾン(ICS)
+ビランテロール(LABA)
+ウメクリジニウム(LAMA)
の3種類が入った吸入薬です。
非常に優れた維持療法ですが、
発作時に追加吸入する薬ではありません。
そのため
テリルジーを使用している患者さんは
普段はテリルジー
発作時は
サルタノール
メプチン
などを使用します。
一方、
シムビコートは普段も発作時も同じ薬を使用できる点が大きな特徴です。
戸頃循環器内科クリニックでは
喘息は「苦しくなった時だけ治療する病気」ではありません。
症状がなくても気道では炎症が続いていることが多く、風邪をきっかけに急激に悪化することがあります。
現在の喘息治療は、「気管支を広げる」だけではなく、「炎症を早期に抑えて重症化を防ぐ」ことが中心となっています。
吸入薬にはそれぞれ役割があり、シムビコート、テリルジーなど、患者さんの病状に応じて最適な治療法を選択することが大切です。
咳が長引く、夜間や早朝に咳が出る、風邪をひくたびに咳や喘鳴を繰り返すという方は、喘息が隠れている可能性があります。
気になる症状がありましたら、お気軽に戸頃循環器内科クリニックまでご相談ください。
