プリン体を控えているのに尿酸値が下がらない時に読む話
尿酸値の「ほんとうの話」
健診で尿酸値を指摘され、ビールをやめ、レバーを避け、それでも翌年ほとんど下がらなかった。
その理由は、たいていプリン体の食べ過ぎではないところにあります。
先日、50代の男性が健診結果を持って来院されました。
尿酸値 7.8 mg/dL。
前の年も 7.9
そのときに「プリン体に気をつけてください」と言われ、この一年、大好きだったビールをプリン体ゼロの発泡酒に替え、焼き鳥のレバーも我慢してこられたそうです。
それで 7.8。
「先生、私は何を間違えたんでしょう」と言われました。
間違えてはいません。
ただ、狙う場所が少しずれていたのだと思います。
尿酸値は、プリン体を控えれば素直に下がる数字ではありません。
この方の場合、原因はプリン体の入口ではなく、まったく別のところにありました。
それがどこだったかは、最後にお話しします。
尿酸の8割は、食べ物ではなく「自分の体」が作っている
プリン体は、悪者の名前のように聞こえますが、本来は細胞の核(DNA・RNA)と、エネルギーの通貨であるATPの材料です。
生きているかぎり、細胞は毎日入れ替わり、エネルギーは毎秒使われています。
その分解産物が尿酸です。
つまり、プリン体は「食べ物に入っている余計なもの」
である前に
「自分の体の中で日々発生しているもの」
なのです。
体内で1日に作られる尿酸はおよそ700mg。
このうち食事に由来するのは2〜3割ほどで、残りの7〜8割は体内での合成と細胞の代謝からできています。
ここに、冒頭の方が下がらなかった理由の前半があります。
食事のプリン体をどれだけ頑張って減らしても、動かせるのは全体の2〜3割の範囲
だからです。
食事の工夫が無意味だという話ではありません。
ただ、食事だけで 7.8 を 6 台にするのは、多くの方にとって難しい話なのです。
入口より出口。日本人の高尿酸血症の6割は「排泄低下型」
では、体で作られる尿酸が多い人が高尿酸血症になるのか。
そう考えたくなりますが、実際は逆に近いのです。
作られた尿酸は、およそ3分の2が腎臓から尿へ、残りが腸から便へ出ていきます。
日本人の高尿酸血症を調べると
尿酸を作りすぎているタイプは少数派。
6割前後は腎臓からの排泄が落ちている「排泄低下型」
です。
蛇口が開きすぎているのではなく、排水口が細くなっている。
排水口を細くする最大の要因は、肥満、正確にはインスリンの効きにくさです。
内臓脂肪が増えるとインスリンが効きにくくなり、体はインスリンを多めに出して補います。
このインスリンが腎臓の尿細管に働くと、尿酸の再吸収が増え、尿へ出るはずの尿酸が血液に戻されてしまいます。
ですから、体重が3〜5kg増えて尿酸値が上がった、という方の場合、犯人はプリン体ではなく体重であることがほとんどです。
逆に言えば
体重を落とすことは、多くの方にとって最も効く「尿酸の薬」
でもあります。
7.0、8.0、9.0 という三つのライン
尿酸は血液に溶けていられる量に上限があり、その限界がおおむね 7.0 mg/dL です。
これを超えると、血液に溶けきれなかった尿酸が少しずつ結晶になり、関節や腎臓に沈着し始めます。
ですから、男女を問わず 7.0 を超えたら「高尿酸血症」です。
女性は一般に尿酸値が低いのですが、閉経後にエストロゲンが減ると上がってくることがあり、7.0 という線は女性にも同じように当てはまります。
| 尿酸値 | 意味 |
|---|---|
| 7.0 mg/dL 超 | 高尿酸血症。結晶が沈着し始めるライン。まず生活習慣の見直しを |
| 8.0 mg/dL 以上 | 痛風発作の経験がある方、または腎障害・高血圧・心疾患・糖尿病などを合併している方は、薬による治療を考える目安 |
| 9.0 mg/dL 以上 | 症状がなくても薬による治療を考える目安 |
| 6.0 mg/dL 以下 | 治療の目標値。痛風発作を起こした方は、ここまで下げて維持することで発作の再発を防げる |
※日本痛風・尿酸核酸学会「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」の考え方に基づく目安です。実際の治療方針は合併症や腎機能などを踏まえて個別に判断します。
「痛風になったことがないから大丈夫」とおっしゃる方は多いです。
私も、痛風発作がなければ急いで薬を出すことはしません。
ただ、結晶は痛みが出るずっと前から静かに溜まっています。
痛風発作は、コップから水があふれた瞬間に見えるだけで、コップ自体はその何年も前から満たされてきています。
そして、結晶が溜まる場所は関節だけではありません。
循環器内科医が尿酸値を気にする理由
尿酸値の高い方を長く診ていると、痛風よりも先に、血圧、腎臓、心臓のほうが気になってきます。
高尿酸血症は、高血圧、慢性腎臓病、心筋梗塞や心不全といった心血管病と、統計上はっきりと結びついています。
尿酸値の高い人ほど、これらの病気を持っている割合が高く、将来発症する割合も高い。
ただ、正直に申し上げると、「尿酸が高いから心臓病になる」のか、「心臓病になりやすい体質の人が尿酸も高い」のかは、まだ完全には決着がついていません。
尿酸を薬で下げれば心筋梗塞が減る、と胸を張って言えるだけの証拠はまだ揃っていない、というのが現時点での誠実な答えです。
一方で、腎臓については話が違います。
腎機能が落ちかけている方の尿酸を下げると、腎機能の低下がゆるやかになることを示した日本の研究があり、ガイドラインも腎障害を合併する高尿酸血症には治療を勧めています。
腎臓は一度悪くなると戻りにくい臓器ですから、ここは守っておきたいとこです。
飲んでいる薬が、尿酸を上げていることがある
循環器内科として、もう一つ見ておきたいことがあります。
血圧や心不全で使う薬の中には、尿酸を上げるものと下げるものがあるのです。
利尿薬(サイアザイド系、ループ系)は尿酸を上げます。逆に、降圧薬のロサルタンや、糖尿病・心不全・腎臓病で広く使われるSGLT2阻害薬には、尿酸を下げる作用があります。
なので。
尿酸値の高い方が血圧の薬を飲んでいるときは、尿酸の薬を足す前に、いまの薬の組み合わせを見直すだけで下がることがあります。
当院で尿酸値を診るとき、必ずお薬手帳を拝見するのはそのためです。
食事の話――レバーを我慢することではない
ここまで読むと、「食事は関係ないのか」と思われるかもしれません。
関係はあります。
ただ、効く順番が、多くの方の想像と少し違います。
1. アルコールは、プリン体とは別の経路で尿酸を上げる
冒頭の方が飲んでいた「プリン体ゼロ」の発泡酒は、たしかにプリン体は入っていません。
しかし、アルコール自体が肝臓で分解されるときにATPを大量に消費し、その分解産物として尿酸が作られます。
さらに、アルコールの代謝で生じる乳酸が腎臓での尿酸の排泄を邪魔します。
つまり、お酒は「入口」と「出口」の両方から尿酸を上げるのです。
ビールにプリン体が多いのは事実ですが、日本酒でも焼酎でもワインでも、アルコールである以上この作用は同じです。
「プリン体ゼロだからいくら飲んでも大丈夫」というわけにはいきません。
目安として、ビールなら500mL、日本酒なら1合、焼酎ならグラス半分程度までにし、週に2日は休肝日をつくる。これがおそらく、食事の中で最も効く一手です。
プリン体ゼロ、と謳っているビールはありますが、痛風にはなりません、とは決して言いませんよね。
嘘じゃないだろうけれど、もやもやするのは上記のことを知っているからです。
2. 甘い飲み物――果糖は「隠れプリン体」
意外に思われるのが果糖です。
清涼飲料水や果汁100%ジュース、甘いコーヒー飲料に含まれる果糖は、肝臓で代謝される際にやはりATPを消費し、尿酸の産生を増やします。
果糖にプリン体は含まれていないのに、尿酸を上げる。
プリン体ゼロ! なのに。
しかもこれらの飲み物は体重を増やし、さきほどの「排水口」も細くします。
プリン体を気にしてレバーを控えている方が、毎日ペットボトルのジュースを飲んでいる、という組み合わせをたまに見かけます。
果物そのものは食物繊維やビタミンもあり、常識的な量なら問題ありませんが、「飲む果糖」は減らしても見てもいいと思います。
3. プリン体は「量」より「極端な食品」を避ける
ガイドラインでは、食事からのプリン体を1日400mg程度までにすることが勧められています。
くどいですが、ゼロ、じゃないのです。
ただ、普通の食事でここを大きく超えることはあまりありません。
避けたいのは、突出して多い一部の食品です。
| 特に多い(100gあたり300mg以上) | 鶏レバー、豚・牛レバー、白子、あん肝、干物(特に煮干し・かつお節)、いわし丸干し |
|---|---|
| 多め(100gあたり200〜300mg) | かつお、まいわし、さんま、車えび、大正えび、豚ヒレ、牛もも |
| 少ない | 牛乳、チーズ、ヨーグルト、卵、野菜全般、海藻、きのこ、豆腐、白米、パン |
肉や魚は、切り身を一食に一人前程度で十分です。
「肉を食べるな」ではなく
「レバー・白子・あん肝を毎週のように食べる習慣があれば見直す」
くらいに考えてください。
プリン体は水に溶けやすいので、煮る・ゆでるという調理で減らせます。
でもその煮汁(鍋のスープ、ラーメンのスープ)に移っています。
鍋の締めの雑炊や、ラーメンの汁を飲み干す習慣は、少し控えていただくとよいところです。
美味しくて出汁も出ているんですけどね。
4. 尿酸を「下げる」側の食品もある
下げる方向に働く食品があります。
低脂肪の牛乳やヨーグルトは、尿酸の排泄を助けることが複数の研究で示されています。
コーヒーも、習慣的に飲む人で尿酸値と痛風のリスクが低い傾向が報告されています(砂糖やシロップを入れないものに限ります)。
野菜、海藻、きのこは尿をアルカリ性に傾け、尿酸が尿に溶けやすくなります。
そして水分。
1日に2L程度の尿が出るくらい水やお茶を飲むことで、尿酸は出やすくなり、尿路結石の予防にもなります。
5. 運動は「軽く長く」
体重を落とすことが最大の対策だとお話ししました。
ただし、運動の種類には注意がいります。
息が上がる激しい運動や、筋トレで追い込むような運動は、筋肉でATPが大量に分解され、一時的に尿酸を上げます。
脱水も重なります。
ウォーキング、軽いジョギング、水中歩行のような、会話ができる程度の有酸素運動を、こまめに水分をとりながら続ける。
それが尿酸に対する正しい運動です。
薬について――「いつから」「いつまで」
生活習慣の見直しで下がらないとき、あるいは痛風発作をすでに経験している、腎機能が落ちている、9.0 を超えているといったときには、薬をお勧めします。
尿酸を下げる薬は大きく二つに分かれます。
作りすぎを抑える「生成抑制薬」
(アロプリノール、フェブキソスタット、トピロキソスタット)
と、
腎臓からの排泄を増やす「排泄促進薬」
(ベンズブロマロン、ドチヌラド)です。
どちらを使うかは、その方の尿酸が「入口の問題」なのか「出口の問題」なのか、腎機能はどうか、尿路結石の既往はあるか、といったことから決めます。
薬を始めるときに、ぜひ知っておいていただきたいことが二つあります。
一つは、痛風発作の真っ最中に尿酸を下げ始めてはいけないということです。
発作中に尿酸値が急に動くと、関節に溜まった結晶が剥がれ落ちて、痛みがかえって長引きます。
発作のときはまず痛みと炎症を抑える薬(消炎鎮痛薬やコルヒチン)で治め、落ち着いてから尿酸を下げる薬を少量から始めます。
もう一つは、薬を始めて数か月のあいだ、発作が「増える」ことがあるということです。
下がり始めた尿酸に反応して、溜まっていた結晶が溶け出す過程で起きる現象で、治療が効いている証拠でもあります。
ここで「薬を飲んだら痛風になった」と自己判断でやめてしまう方が少なくありません。
この時期を越えれば発作は確実に減っていきます。
少量から始める、必要なら発作予防の薬を併用する、といった工夫で乗り切ります。
「いつまで飲むのか」については、率直に言って、多くの方で長い付き合いになります。
尿酸値が 6.0 以下で安定した状態を続けることが、関節に溜まった結晶を溶かし、腎臓を守ることにつながるからです。
ただし、体重が落ち、お酒が減り、生活が変われば、薬を減らせる方、やめられる方もいらっしゃいます。
薬は生活習慣を変えない言い訳ではなく、生活を変えるあいだの支えだと考えていただければと思います。
こんな方は一度ご相談ください
- 健診で尿酸値が 7.0 mg/dL を超えていると言われた(症状がなくても)
- 足の親指のつけ根、足首、膝などが急に赤く腫れて激しく痛んだことがある
- 尿酸値が高く、あわせて高血圧・糖尿病・腎機能低下・脂質異常のいずれかを指摘されている
- 血圧や心臓の薬を飲んでいて、尿酸値が上がってきた
- 尿酸の薬を飲んでいるが、発作が出てやめてしまった
冒頭の方のその後
さて、最初にお話しした 7.8 の男性です。
お薬手帳を拝見すると、数年前から血圧の薬として利尿薬が入っていました。
体重は、この一年で3kg増えていました。
ビールを発泡酒に替えたぶん、本数は少し増えていたそうです。
そして、毎日の昼食のあとに、缶コーヒーの微糖を一本。
尿検査をしてみると、尿酸の排泄は明らかに落ちていました。
典型的な排泄低下型です。
この方が我慢していたレバーは、ほとんど関係がありませんでした。
降圧薬を利尿薬から尿酸を下げる作用のあるものに変更し、缶コーヒーを無糖に、発泡酒は本数を決めて週に2日は休み、夕食後に30分歩いていただく。尿酸の薬はまだ使っていません。
半年後の尿酸値は 6.4。
体重は2kg減っていました。
本人の言葉を借りれば、「レバーを食べられるようになった」のが一番うれしかったそうです。
尿酸値は、食べたものの成績表ではなく、その方の体重、腎臓、飲んでいる薬、お酒の飲み方が一枚に映った写真のようなものです。
健診でこの数字を指摘されたときは、プリン体表を眺める前に、一度その写真をご一緒に読ませてください。
どこを変えれば下がるかは、人によって本当に違います。
でも治療を始めた以上、しっかり治してつらい思いをしないように最大限サポートしていきます。
