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コロナ感染症の治療について

[2026.08.19]

COVID-19は「もう普通の風邪」なのか?

2026年、抗ウイルス薬を誰に使うべきかという問題があります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日常的な感染症となってから、かなり時間が経過しました。

以前のように「コロナに感染した」というだけで社会全体が緊張する状況ではなくなりました。

 

「今のコロナは以前より軽いのでは?」

と感じている方も多いと思います。

 

実際、現在はワクチン接種や過去の感染によって多くの人が免疫を持つようになり、流行初期と比較すると重症化する患者さんの割合は低下しています。

しかし。

「重症化する人が減った」ことと、「誰にとっても普通の風邪になった」ことは同じではありません。

 

2025年に日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本化学療法学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会の5学会から、新しい「新型コロナウイルス感染症診療の指針」が発表されました。

この新しい指針で非常に重要なのは、

 

COVID-19患者を一律に扱うのではなく

「その人が重症化しやすいかどうか」を評価して治療を考える

 

という考え方です。

 

COVID-19治療で最初に考えるのは「重症化リスク」

5学会指針では、重症化リスクを単純に「65歳以上」といった一つの条件だけで決めていません。

年齢だけでなく、

  • 心不全、冠動脈疾患、心筋症などの心疾患

  • 糖尿病

  • 慢性腎臓病

  • COPDや喘息

  • 肥満

  • 悪性腫瘍

  • 脳血管疾患

  • 喫煙歴

  • 免疫抑制状態

  • 妊娠

  • 複数の基礎疾患

などを総合して判断します。

さらに。

基礎疾患がきちんとコントロールされているか

ワクチンを最近接種しているか

高熱や呼吸困難、強い倦怠感があるか、

といったことも加味します。

つまり、

「高血圧があるから必ず抗ウイルス薬」
「65歳未満だから必要ない」

という単純な話ではありません。

患者さん一人ひとりのリスクを総合して判断することが重要です。


高度の免疫不全があれば、積極的に抗ウイルス薬を考える

5学会指針では、特に重要な患者群として「高度の免疫不全」が挙げられています。

たとえば、

悪性腫瘍に対して積極的な治療を受けている方
造血器悪性腫瘍
臓器移植後
強力な免疫抑制療法中
高度の原発性免疫不全
進行したHIV感染症

などです。

このような患者さんについては、

症状の程度や経過にかかわらず抗ウイルス薬の投与を強く推奨する

という立場が示されています。

 

そこまで強い免疫不全がなくても、重症化リスクが高い患者では抗ウイルス薬投与が推奨されます。

逆に、重症化リスクが低い患者であっても、高熱、強い倦怠感、咳、咽頭痛などの症状が強ければ、症状を早く改善する目的で抗ウイルス薬を使用することがあります。

 

3種類の飲み薬はどう使い分けるのか

現在、日本の外来COVID-19診療で主に使用される経口抗ウイルス薬には、

パキロビッド
ゾコーバ
ラゲブリオ

があります。

どれも「コロナの薬」ですが、実は位置づけはかなり違います。

 

① パキロビッド――重症化予防を重視する場合の中心的な薬

パキロビッドは、

ニルマトレルビル+リトナビル

という2種類の薬を組み合わせた抗ウイルス薬です。

5学会指針で整理されているエビデンスを見ると、特に

重症化リスクの高い患者の入院・死亡を防ぐ

という点で最も確立したデータを持つ薬剤の一つです。

 

パンデミック初期のEPIC-HR試験では、重症化リスクを持つ未入院患者において、入院または死亡を大きく減少させました。

もちろん、この試験は主としてワクチン未接種時代のデータであり、現在の患者にその数字をそのまま当てはめることはできません。

しかし、オミクロン流行期のリアルワールドデータでも、特に高齢者や重症化リスクの高い患者で有効性が示されています。

そのため実臨床では、

「この患者さんでは、とにかく重症化を防ぎたい」

という場合にまず検討される薬の一つです。

 

パキロビッド最大の問題は「薬物相互作用」

一方、パキロビッドには大きな弱点があります。

リトナビルがCYP3Aを強く阻害するため、

他の薬との相互作用が非常に多い

ことです。

循環器内科ではここが特に重要です。

現在の添付文書では、

アミオダロン
フレカイニド
プロパフェノン
リバーロキサバン
チカグレロル
エプレレノン
アゼルニジピン

など、循環器診療で使用する薬の一部が併用禁忌に含まれています。

「高齢で心疾患があるからパキロビッドを使いたい」

と思っても、

心疾患があるからこそ服用薬が多く、パキロビッドを使えない

ということが実際には少なくありません。

そのため当院でも処方前には必ずお薬手帳を確認します。

 

腎機能にも注意が必要

パキロビッドは腎機能によって投与量が変わります。

現在の添付文書では、

eGFR 60以上では通常量、
eGFR 30以上60未満ではニルマトレルビルを減量、
eGFR 30未満では投与は推奨されていません。

そのため、

高齢者、慢性腎臓病患者では腎機能確認が重要

になります。

COVID-19診療でクレアチニンやeGFRを確認する意味はここにもあります。

当院ではかかりつけではない患者さんでは、当日に腎機能まですぐにわからないため判断に迷う点です。

また、コロナに感染しているからという理由で一律に血液検査をするわけにもいきません。

初診で腎機能がわからない、高血圧や糖尿病があり、腎臓機能が心配、というときにパキロビットの処方をためらうのはこの点です。

 

② ゾコーバ――「症状を早く改善する」という特徴を持つ薬

ゾコーバの一般名は

エンシトレルビル

です。

パキロビッドと同じく、SARS-CoV-2の3CLプロテアーゼを阻害する薬です。

その位置づけには少し違いがあります。

ゾコーバの大きな特徴は、

重症化予防だけでなく、COVID-19症状の早期改善について比較的明確な臨床試験データがある

ことです。

SCORPIO-SR試験では、

鼻水・鼻づまり、
喉の痛み、
咳、
熱っぽさ・発熱、
倦怠感、

という5症状が改善するまでの時間が、プラセボと比較して約24時間短縮しました。

つまり、

「重症化リスクを下げる」だけではなく

「今つらい症状を少しでも早く改善したい」

という目的でも位置づけやすい薬です。

 

5学会指針でも、重症化リスクが低い患者であっても症状が強い場合には、患者さんの希望や背景を考慮して抗ウイルス薬を検討するとしています。

その意味で、ゾコーバは非常に使いやすい薬です。

 

ゾコーバは発症72時間以内

ゾコーバは、

症状発現から72時間以内

に投与を開始する必要があります。

つまり、

「数日様子をみて治らなかったら飲みましょう」

では遅くなる可能性があります。

 

COVID-19の抗ウイルス治療では、

早く診断し、早くリスク評価する

ことが非常に重要です。

 

2026年、ゾコーバはさらに適応が広がった

2025年の5学会指針作成時には、ゾコーバの治療適応は12歳以上でした。

しかしその後適応が拡大され、

2026年8月現在では、

6歳以上の小児についても体重に応じた治療が可能

となっています。

 

さらに現在は、

COVID-19患者との接触後の発症予防

についても承認されています。

 

ただし予防目的では誰にでも投与するわけではなく、原則として感染患者の同居家族・共同生活者のうち重症化リスク因子を持つ人が対象です。

 

COVID-19治療薬の位置づけは現在も変化しているため、処方時には最新の添付文書・指針を確認する必要があります。

ゾコーバにも相互作用がある

「パキロビッドより簡単」と考えすぎるのも危険です。

ゾコーバもCYP3Aに影響するため、

併用禁忌薬がかなりあります。

循環器領域では、

アゼルニジピン
エプレレノン
リバーロキサバン
チカグレロル
イバブラジン

などにも注意が必要です。

また、

妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与できません。

ここは非常に重要です。

 

③ ラゲブリオ――相互作用が少ないことが大きな強み

ラゲブリオの一般名は

モルヌピラビル

です。

この薬の一番の特徴は、

薬物相互作用が非常に少ない

ことです。

高齢者では、

降圧薬、
抗凝固薬、
抗不整脈薬、
脂質異常症治療薬、
糖尿病薬、

など多くの薬を服用していたりします。

そのため、

「パキロビッドを使いたいが併用薬の問題で使えない」

というケースで、ラゲブリオが重要な選択肢になります。

5学会指針でも、高齢者においては各薬剤の有効性の違いを踏まえつつ、ニルマトレルビル/リトナビルを優先し、それが使用できない場合に他剤を検討するという考え方が示されています。

 

ラゲブリオは「弱い薬」なのか

ここは誤解されやすいところです。

初期のMOVe-OUT試験では、重症化リスクのある未接種患者で入院・死亡を減少させました。

一方、その後ワクチン接種が普及した時代に行われた大規模PANORAMIC試験では、

入院・死亡を有意には減少させませんでした。

 

ただし、症状が回復するまでの時間については短縮が認められています。

つまりラゲブリオは、

「効かない薬」なのではなく、

現在の免疫獲得集団では、重症化予防効果の大きさがパキロビッドほど明確ではない

と考えるのが良いと思います。

その一方で、

相互作用が少ない、
腎機能による用量調整が基本的に不要、

という実臨床上の大きな利点があります。

 

「理論上最も強い薬」だけでは患者さんを治療できません。

その患者さんが安全に飲める薬を選ぶことも同じくらい重要です。

 

妊娠についてはラゲブリオも注意

ラゲブリオも、

妊婦または妊娠している可能性のある女性には使用できません。

2026年にはPMDAから、ゾコーバとラゲブリオについて妊娠する可能性のある女性への投与に関する注意喚起も改めて出されています。

妊娠可能年齢の女性では、処方前の確認が欠かせません。

 

3剤をどう使い分けるのか

非常に単純化すると、当院では次のような考え方になります。

重症化リスクが高く、相互作用や腎機能の問題がなければ
→ パキロビッドを有力候補として考える

比較的軽症でも症状が強く、発症早期である
→ ゾコーバを検討する

高齢、多剤併用などでパキロビッドやゾコーバの相互作用が問題になる
→ ラゲブリオを検討する

もちろん実際には、

年齢、
重症化リスク、
症状の強さ、
発症からの日数、
腎機能 肝機能(がわかっているか不明か)
妊娠可能性、
併用薬、
患者さんの希望、

を総合して判断します。

「この薬が一番強いから全員これ」

という使い方ではありません。

 

「後遺症を防ぐために飲む」は、まだ少し慎重に

COVID-19罹患後症状、いわゆるLong COVIDを心配される患者さんも多くいます。

観察研究では、パキロビッドやラゲブリオを急性期に使用した患者で、その後の罹患後症状が少なかったという報告があります。

後遺症がすくなるなるかも、という話です。

ゾコーバについても、臨床試験の副次解析で一部の罹患後症状について改善傾向が報告されています。

しかし5学会指針は、

「罹患後症状の予防」を主要評価項目とした質の高い臨床試験はまだ十分ではない

と整理しています。

そのため、

「この薬を飲めばLong COVIDを防げる」

と断言する段階ではありません。

現時点で抗ウイルス薬を処方する主な目的は、

重症化予防と、急性期症状の改善

と考えるのが妥当です。

 

感染したときにどう考えておくか?

M3総研が2026年7月に実施した患者さんアンケートでは、重症化リスクを有するCOVID-19患者の約9割が、

自分自身の重症化リスク
後遺症の可能性
基礎疾患が悪化する可能性

について医師から説明してほしいと回答しています。

 

一方、

患者側からみて「医師から抗ウイルス薬を推奨された」と認識していた割合は18%にとどまっていました。

ここには大きなギャップがあります。

 

医師から勧められると、治療選択は大きく変わる

同じアンケートでは、重症化リスクのある患者のうち、

抗ウイルス薬を医師から推奨されなかった場合の受諾率は31%。

 

つまり本来なら必要だったと考えられるものの、抗ウイルス薬を服用しなかった方が7割。

 

ところが、

医師から推奨された場合には93%

の方がが治療を受け入れていました。

 

これは非常に興味深い数字です。

患者さんが治療を拒んでいるというより、

「自分にその治療が必要なのか分からない」

ことが大きいのではないでしょうか。

 

だからこそ医師は、

「薬があります」

だけではなく、

「あなたは○○という理由で重症化リスクがあるため、この治療を考える意味があります」

と説明を受ける必要があります。

 

ところが実際の処方率は低い

M3が運営するリアルワールドデータベースJAMDASのデータでは、

COVID-19に対する抗ウイルス薬処方率は、インフルエンザと比べて大幅に低いことが示されています。

今回公表された2025年4月~2026年6月のデータでは、

インフルエンザ 91%
COVID-19全体 13%

でした。

さらにCOVID-19患者でも、

重症化リスクあり 32%
重症化リスクなし 7%

でした。

つまり、

重症化リスクを持つ患者であっても、およそ3人に1人しか抗ウイルス薬を処方されていない

ことになります。

 

80歳以上でも約半数

さらに年齢別に見ると、

重症化リスクがあるCOVID-19患者への抗ウイルス薬処方率は、

65歳未満 14%
65~70歳未満 20%
70~75歳未満 30%
75~80歳未満 38%
80歳以上 53%

でした。

年齢とともに処方率は高くなっています。

 

しかし。

80歳以上でも約半数

です。

もちろん「抗ウイルス薬を処方しなかった=不適切診療」ではありません。

腎機能、併用薬、妊娠可能性、症状、発症からの日数、患者さんの希望などによって、処方できないことはあります。

あと、薬価、つまり値段です。

 

それでも、

本来治療を検討すべき患者が十分に拾われていない可能性

は考える必要があります。

 

なぜ抗ウイルス薬が処方されにくいのか

医師アンケートでは、COVID-19治療薬を勧める際の問題として、

患者さんの費用負担が大きい 55%
併用薬・腎機能などの確認に手間がかかる 32%
説明に時間がかかる 29%
効果を確約できず説明しづらい 26%

などが挙げられています。

これは実際の診療をしていると非常によく分かります。

発熱で辛い思いをしている患者さんが来院したとき、

陽性か陰性かを確認するだけなら比較的簡単です。

しかし抗ウイルス薬を処方するとなると、

「いつ発症したのか」
「何歳か」
「重症化リスクは何か」
「腎機能はどうか」
「他に何を飲んでいるか」
「休薬できる薬か」
「妊娠の可能性はないか」

まで確認する必要があります。

抗ウイルス薬を適切に使うということは、かなり手間を掛けるべき診療なのです。

 

循環器内科の患者さんはCOVID-19重症化リスクと重なる

当院には、

高血圧、
糖尿病、
脂質異常症、
肥満、
冠動脈疾患、
心不全、
慢性腎臓病、

などを持つ患者さんが多く通院されています。

まさにCOVID-19の重症化リスク評価で問題になる患者さんです。

 

そして循環器内科では普段から、

腎機能、
心機能、
血圧、
糖代謝、
脂質、
抗凝固薬、
抗不整脈薬、

などを把握しています。

COVID-19治療は「感染症専門医だけの仕事」ではありません。

むしろ、

その患者さんの全身状態と服用薬を普段から知っているかかりつけ医だからこそ、適切な抗ウイルス薬を選べる

場合があります。

 

「コロナ陽性でした」で診療を終わらせない

2026年のCOVID-19診療で重要なのは2つ。

一つ目は、誰がコロナの予防接種を受けるべきか、を見切りどうおすすめし、実際にしっかり予防すべきか、という観点。

 

二つ目は、

「コロナ陽性です」

と診断することだけではなく

「この患者さんは重症化する可能性が高いのか?」

を考えることです。

 

そして、

重症化リスクが高ければ積極的に抗ウイルス治療を検討する。

重症化リスクが低くても症状が強ければ、症状軽減を目的に治療を相談する。

 

一方で、低リスクで症状も軽ければ、必ずしも抗ウイルス薬が必要なわけではありません。

つまり今のCOVID-19診療は、

「全員に薬を出す」でも、
「もう風邪だから薬はいらない」でもありません。

 

一人ひとりのリスクを評価して、

治療による利益が大きい患者を見逃さない。

これが2025年の5学会指針から読み取れる、現在のCOVID-19診療の基本だと考えます。

 

当院ではCOVID-19と診断した患者さんについて、年齢や基礎疾患だけでなく、腎機能、併用薬、症状、発症時期などを確認したうえで、抗ウイルス薬を使用するメリットとデメリットをご説明し、一緒に治療方針を考えていきます。

COVID-19を必要以上に恐れる必要はありません。

しかし、

高リスクの方まで「ただの風邪」として扱わないこと。

予防接種を必要な人に届けること。

 

この2つの視点が今の時代の大切なCOVID-19診療だと思います。

 

参考文献

  1. 日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本化学療法学会・日本臨床微生物学会・日本環境感染学会.5学会による新型コロナウイルス感染症診療の指針 2025.2025.

  2. Hammond J, Leister-Tebbe H, Gardner A, et al. Oral Nirmatrelvir for High-Risk, Nonhospitalized Adults with Covid-19. N Engl J Med. 2022;386:1397-1408.

  3. Arbel R, Wolff Sagy Y, Hoshen M, et al. Nirmatrelvir Use and Severe Covid-19 Outcomes during the Omicron Surge. N Engl J Med. 2022;387:790-798.

  4. Hammond J, et al. Nirmatrelvir for Vaccinated or Unvaccinated Adult Outpatients with Covid-19. N Engl J Med. 2024;390:1186-1195.

  5. Butler CC, Hobbs FDR, Gbinigie OA, et al. Molnupiravir plus usual care versus usual care alone as early treatment for adults with COVID-19 at increased risk of adverse outcomes (PANORAMIC). Lancet. 2023;401:281-293.

  6. Takazono T, et al. Real-world effectiveness of ensitrelvir in reducing severe outcomes in outpatients at high risk for COVID-19. Infect Dis Ther. 2024;13:1821-1833.

  7. PMDA.パキロビッドパック600/300 添付文書.2026年3月改訂.

  8. PMDA.ゾコーバ錠25mg/125mg 添付文書.2026年8月改訂.

  9. PMDA.ラゲブリオ錠400mg/カプセル200mg 添付文書.

  10. エムスリー総合研究所.COVID-19治療に関する実態調査およびJAMDASリアルワールドデータ.

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