コロナワクチンについて考えていること
「コロナはもう軽い病気だから、ワクチンは必要ない」のか
診察室で、最近このようなお話をよく伺います。
「コロナは以前より軽くなったのでしょう」
「一度かかったので、もう免疫があると思います」
「ワクチンを打っても感染するなら、打つ意味はないのではありませんか」
「副反応のほうが心配です」
そうですよね。
新型コロナがニュースで大きく取り上げられる機会は減り、街の生活も以前の日常に戻っています。
ワクチンを何度も接種してきたことで、「今年も本当に必要なのだろうか」と迷う方も多いと思います。
しかし、循環器内科医として考えてしまいます。
現在の新型コロナワクチンの大切な目的は、感染を完全に防ぐことだけではありません。
万一感染したとしても、入院、重症化、死亡、そして感染後の体力や生活機能の低下をできる限り防ぐことです。
つまり、ワクチンは単に「コロナにかからないため」だけのものではありません。
皆さまが今の生活を守り、ご家族と元気に過ごし続けるための備え、だと考えるようになりました。
新型コロナは、決して「終わった病気」ではありません
新型コロナは、ニュースで大きく扱われなくなりました。
それでもなくなったわけではありません。
当院の発熱外来でも、非常につらそうに受診され、症状をお聞きして。
検査をしてみると新型コロナ感染で、こんなにつらい目に合われている方々と日々向かい合っています。
現在も夏と冬を中心に流行を繰り返しています。
特に高齢の方や基礎疾患のある方では、肺炎、呼吸不全、心不全の悪化、血栓症、腎機能の悪化などにつながることがあります。
2025年に国内で新型コロナによって亡くなった65歳以上の方は、約2万1,000人でした。
新型コロナによる死亡者の98%を、65歳以上の方が占めています。
さらに、同じ年の65歳以上のインフルエンザによる死亡数と比較すると
新型コロナによる死亡数は約3.3倍でした。
インフルエンザワクチンは毎年接種しているかたは多いです。
でも。
新型コロナワクチンは「もう必要ない」と考えている方も少なくありません。
しかし、高齢の方にとって、新型コロナの負担は現在もインフルエンザと同等、あるいはそれ以上です。
「以前ほど騒がれていない」ということと、「もう危険ではない」ということは、決して同じではありません。
心配しているのは、肺炎だけではありません
高齢の方が新型コロナに感染した場合、私たち医師が心配するのは、肺炎や人工呼吸管理、死亡だけではありません。
数日間の発熱や食欲低下をきっかけに、
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足腰が弱くなってしまう
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外出できなくなってしまう
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心不全や腎機能が悪化する
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認知機能が低下する
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転倒や骨折につながる
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それまでできていた日常生活ができなくなる
ということがあります。
特に高齢の方では、感染前には買い物や散歩に出かけていた方が、感染後に寝ている時間が増え、そのまま体力を取り戻せなくなることもあります。
たった一度の感染が、「これまでどおり自立して生活できるかどうか」の分かれ目になってしまうことさえあるのです。
だからこそ、私たちは感染者数だけを見ているのではありません。
ワクチン接種によって守りたいのは、皆さまの命だけではなく、その後の生活そのものなのです。
「ワクチンを打っても感染する」
それでも大きな意味があります。
新型コロナワクチンを接種しても、感染を100%防げるわけではありません。
これは事実です。
しかし、「感染する可能性が残る」ということと、「接種する意味がない」ということは、まったく違います。
国内で行われた研究では、流行株に対応したワクチンを接種した60歳以上の方は、接種していない方と比べて、新型コロナによる入院が約62%少なかったと報告されています。
海外の研究でも、65歳以上の方において、
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入院を約61%減らす
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死亡を約70%減らす
という効果が報告されています。
この差をどう受け取るか、ということです。
新型コロナワクチンは、感染を完全に遮断する鉄壁ではありません。
むしろ、万一感染したときに深刻な結果から皆さまを守る「シートベルト」に近いものです。
シートベルトを着けても、交通事故そのものをゼロにはできません。
しかし、事故が起きたときの結果を大きく変える可能性があります。
ワクチンも同じです。
接種しても感染することはあります。
それでも、入院せずに済む可能性
重症化を避けられる可能性
そして元の生活に早く戻れる可能性
を高めることには、大きな意味があります。
「以前かかったから、もう大丈夫」とは限らない
過去に新型コロナへ感染した方にも、再感染は起こります。
感染によって得られた再感染予防効果は、時間とともに低下します。
1年以上経過すると、その効果はほとんど失われることが報告されています。
さらに、新型コロナウイルスは今も変異を続けています。
過去の感染や以前のワクチン接種によって得られた免疫を、部分的にすり抜けるウイルスが流行する可能性があります。
そのため、すでに新型コロナへ感染したことがある方にも、最新の流行株に対応したワクチンを接種する意味があります。
最近感染した方は、体調が回復してから接種できます。
感染から3か月程度あけるという選択肢もありますので、適切な接種時期については個別にご相談ください。
特に接種をお勧めしたい方がいます
2026年度の新型コロナワクチン定期接種は、原則として次の方が対象です。
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65歳以上の方
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60~64歳で、心臓、腎臓、呼吸器または免疫機能に一定の重い障害がある方
また、定期接種の対象年齢に達していなくても、次のような方は接種を積極的に検討していただきたいと考えています。
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心臓病や心不全のある方
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慢性腎臓病のある方
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COPDや気管支喘息などの呼吸器疾患がある方
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糖尿病のある方
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高度の肥満がある方
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がんの治療を受けている方
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免疫を抑える治療を受けている方
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高齢者や免疫不全の方と同居している方
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感染によって仕事や介護を長期間休むことが難しい方
循環器内科である当院ではほ多くの患者さんが該当する気がします。
若く健康な方では、高齢の方ほど重症化リスクは高くありません。
その場合は、年齢、基礎疾患、仕事、家庭環境、過去の感染歴、これまでの副反応などを踏まえ、接種による利益と負担を個別に考えることが大切です。
全員に同じ答えがあるわけではないです。
だからこそ、ご自身だけで迷い続けるのではなく、相談していただきたいのです。
新型コロナは、心臓や血管も無関係ではない
新型コロナは、呼吸器だけの感染症ではありません。
感染に伴う発熱、脱水、低酸素、強い炎症は、心臓に大きな負担をかけます。
もともと高血圧、心不全、狭心症、不整脈、弁膜症などがある方では、感染をきっかけに病状が悪化することがあります。
また、感染後に動悸、息切れ、胸部不快感、強い倦怠感などが長く続く方もいます。
「肺炎にならなければ大丈夫」とは限りません。
循環器疾患のある方にとって、感染そのものを避け、万一感染しても重症化を防ぐことは、心臓を守るためにも重要です。
感染後の症状が長引くLong COVID
新型コロナに感染した後、強い倦怠感、息切れ、動悸、集中力低下、頭痛、睡眠障害などが長期間続くことがあります。
いわゆる「Long COVID」「罹患後症状」と呼ばれる状態です。
国内調査では、日常生活に支障をきたす症状が3か月以上続いた70歳以上の方も報告されています。
また、追加のワクチン接種を受けた方では、初回接種だけの方と比較して、罹患後症状の頻度が23%低かったとする解析もあります。
ワクチンは、入院や死亡を防ぐだけではありません。
感染後に長く体調を崩し、仕事や家事、趣味、外出ができなくなる可能性を減らすという意味でも、接種を検討する価値があります。
副反応について言えること
ワクチンについて考えるとき、副反応への不安が常にあります。
接種後には、注射した部分の痛み、倦怠感、頭痛、筋肉痛、発熱などがみられることがあります。
多くは数日以内に改善する一過性のものですが、症状の程度には個人差があります。
また、ワクチンのリスクが完全にゼロというわけではありません。
ごくまれに、重い健康被害が起こる可能性もあります。
そのことを隠して接種をお勧めするつもりはありません。
一方で、国内外の疫学研究では、新型コロナワクチン接種後に、全体として死亡リスクが増加したという結果は認められていません。
大切なのは、ワクチンの副反応だけを見るのではなく、接種せずに新型コロナへ感染した場合の危険性と比較することです。
特に高齢の方や基礎疾患のある方では、感染による入院、心不全の悪化、体力低下、生活機能の喪失といったリスクが大きくなります。
何と何を比べるか、はとても大事なことです。
以前の接種で強い発熱があった方や、副反応が心配な方には、使用するワクチンの種類を含めて相談する方法があります。
「打つか、打たないか」だけで悩むのではなく、
「自分にはどのワクチンが適しているのか」
「いつ接種するのがよいのか」
「感染した場合と接種した場合では、どちらのリスクが大きいのか」
を一緒に考えていきましょう。
今年の流行には、今年の流行株に対応したワクチン
新型コロナウイルスは変異を続けるため、ワクチンも流行株に合わせて更新されます。
2026年度は、XFGまたはNB.1.8.1系統に対応した新しいワクチンが供給される予定です。
以前に何度か接種していても、時間の経過とウイルスの変異によって、予防効果は次第に低下します。
これは、インフルエンザワクチンを毎年接種する考え方と似ています。
「過去に何回打ったか」
だけではなく
「これから流行するウイルスに備える免疫があるか」
という視点が大切です。
新型コロナワクチンは、(医師が必要と判断した場合) インフルエンザワクチンとの同時接種も可能です。
当院では基本的にすべての方で同時接種可能である、と考えています。
それでも。
接種時期や組み合わせについて不安がある方は、遠慮なくご相談ください。
「元気なうちに備える」という選択
ワクチン接種は、誰かに強制されて受けるものではありません。
ご自身が利益とリスクを理解し、納得したうえで判断することが大切です。
しかし、65歳以上の方や基礎疾患のある方には、ぜひ一度、真剣に接種を検討していただきたいと思います。
感染してから、「接種しておけばよかった」と後悔しても、時間を戻すことはできません。
一方で、元気なうちであれば、これからの流行に備えることができます。
新型コロナワクチンは、感染を完全に防ぐ魔法の注射ではありません。
それでも、入院や重症化を減らし、皆さまがこれまでどおりご家族と過ごし、散歩や買い物を楽しみ、自分らしい生活を続けるための、現実的で大切な選択肢です。
守りたいのは、単なる検査結果や数字ではありません。
命、その後の健康、そして大切な日常生活です。
接種するかどうかを決めてから受診する必要はありません。
「私は接種したほうがよいでしょうか」
「以前、副反応が強かったのですが大丈夫でしょうか」
「どのワクチンを選べばよいでしょうか」
そのようなご相談だけでも構いません。
今冬、そして来夏の流行に備えて、ご自身と大切なご家族の生活を守るために、今年の新型コロナワクチンについて、ぜひ一度考えてみてください。
2026年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解】 一般社団法人日本感染症学会、一般社団法人日本呼吸器学会、日本ワクチン学会より「2026年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解」が公表されています。
