そんなに食べてないのに痩せない。
この1ヶ月で数回聞いた言葉です。
「そんなに食べてないんですけど、全然痩せない…」
これはとてもよくある、そして自然なことです。
こういったタイプの説明は外来中には時間を取って話しにくいのでこちらでお話します。
人は「食べた量」を正しく覚えていない?
人間の記憶は、案外あいまいです。
研究によれば、人は食べたものの1〜2割は無意識に忘れている、ことがわかっています。
とくに忘れやすいのは
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料理中につまんだおかず
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缶コーヒーやラテ
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会議で出されたお茶菓子
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調味料(マヨネーズ・ドレッシング)
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テレビを見ながらのスナック
つまり、「そんなに食べてない」と感じていても、実際には気づかない摂取が毎日少しずつ積み重なっていることがあります。
食べ物で言えば、ケーキやビスケット、デザート、ジュースなどは食べた量と記憶がズレて、少なめに記憶に刻まれることが研究で言われています。
体型によって忘れやすさに違い
体型がぽっちゃりしている方ほど、「自分が食べた量を少なく見積もる傾向」があることが分かっています。
これは、心理的な防衛反応や、間食・ながら食いの頻度が関係しています。
逆に、やせ型の方は「何をどれだけ食べたか」に敏感な方が多く、記憶とのズレが小さい傾向にあります。
性別では、女性は体型にかかわらず少なめに記憶しがちで、男女ともに肥満傾向の方では実際の食事量より少ない量しか食べていないと記憶している傾向があるとわかっています。
食べる量は少なくても、動いていない?
もう一つの要素が「動かなさ」です。
ジムに行くような運動ではなくても、日常のちょっとした動き(家事、階段、歩き回る)が消費エネルギーを大きく左右します。
これを「NEAT(非運動性熱産生)」と呼びます。
たとえば…
| 動作 | カロリー消費(1時間) |
|---|---|
| 座っている | 約60 kcal |
| 立っている | 約100 kcal |
| 歩き回っている | 約180 kcal |
つまり、同じ食事をしても、「日常でよく動く人」と「ほぼ座りっぱなしの人」では、1日あたり100〜200kcalもの差が生まれます。
これが1ヶ月続けば、体重 1kg以上の差に。
体重のことを考えると、ちょこちょこ動く、は大事です。
動脈硬化の管理や進行予防では30分程度動き続けるのが重要であることとは、異なる話です。
代謝が落ちているのかも
40代以降になると、基礎代謝(何もしなくても消費されるエネルギー)は自然と低下します。
筋肉量が減ることや、甲状腺機能の変化などが関係しています。
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同じ食事でも、20代の頃は太らなかったのに、40代以降は太りやすくなる…
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これは「気のせい」ではなく、代謝が落ちている生理現象です。
どうすればいい
「そんなに食べてないのに痩せない」方には、次の3つをおすすめです。
1週間だけ、食事を全部写真に撮ってみる
意外と「無意識の食べもの」に気づけます。
InBodyなどで筋肉量と基礎代謝を可視化
脂肪を燃やす力を知ることで、必要な食事量や運動量の目安がわかります。
また定期的に測定することで、その間の筋トレの効果、つまりは代謝力の改善を目に見ることができます。
モチベーションが上がります。
筋肉は裏切らない、という誰かの名言を思い出します。
食後に10分でもいいので動く習慣
→ NEATを上げて痩せやすい体質にシフトしましょう。
まずは1分。
明日もやろう、でいいのです。
自分を責めない。
「そんなに食べてないのに…」と感じてしまうのは、ご本人の努力があるからこそです。
でも体には「無意識の食事」「代謝の変化」「活動量の差」など、目に見えにくい影響がたくさんあります。
診察では、上記のような話をすることはほとんどありません。
でも相手の生活での感じを見て、背景をひとつずつ整理しながら、その時々で必要なアドバイスをしています。
食事は楽しみたいですよね。
罪悪感をもってご飯を食べるのは避けたいものです。
単純に。
人は食べたものを1割。あるいは2割は忘れます。
肥満傾向が強い方ほど、たくさん忘れているのかも、という話です。
個人的にしている対策はシンプルです。
目の前の食べ物をひとつひとつ、丁寧に味わって感謝していただくこと。
あるいは。
無心で料理をして、時間をかけて作ったものを楽しむこと。
ソフリットはジップロックで冷凍庫へ。
ラタトゥーユはキンキンに冷やして。
カレーは甘口で仕上げて、食べる直前に辛味パウダーをふりかけて。
一口一口を忘れません。
