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「もう高齢だからスタチンは不要」は本当でしょうか

[2026.09.03]

70歳を超えても、心筋梗塞・脳卒中を防ぐ効果が確認されました

悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールを下げる代表的な薬が「スタチン」です。

スタチンは、心筋梗塞や脳卒中を防ぐことが確認されており、世界中の脂質異常症治療で第一選択として使われています。

一方、これまで高齢の方に心筋梗塞や脳卒中の既往がない場合。

つまり「一次予防」としてスタチンを新しく始めるべきかについては、十分な研究データがありませんでした。

日本の動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2022年版)でも、75歳以上の一次予防は「個々の患者さんに応じて判断する」とされており、明確な基準がなかったのが実情です。

 

「LDLコレステロールは高いけれど、もう高齢だから薬を始めなくてもよいのではないか」

「若い人には有効でも、高齢者には効果が少ないのではないか」

 

このような疑問に、一つの重要な答えを示したのが、2026年8月に欧州心臓病学会(ESC)で発表され、同時に医学誌 New England Journal of Medicine に掲載された大規模臨床試験「STAREE試験」です。

 

70歳以上でも心血管イベントが約30%減少

STAREE試験には、心血管疾患、糖尿病、認知症のない70歳以上の方 9,971人 が参加しました。

オーストラリアの一般診療所で行われた研究です。

平均年齢は74.7歳。

治療開始前のLDLコレステロールは平均 127mg/dL でした。

決して、極端にコレステロールが高い人だけを集めた研究ではありません。

 

参加者は、

  • アトルバスタチン40mgを服用するグループ
  • 有効成分を含まないプラセボを服用するグループ

に分けられ、中央値で約6年間(5.9年)にわたって追跡されました。

 

その結果、心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建を合わせた主要心血管イベントは、

  • プラセボ群:8.3%
  • アトルバスタチン群:6.0%

となり、アトルバスタチンによって相対的に約30%減少しました。

約44人が6年間スタチンを服用すると、1人の心血管イベントを予防できる計算です。

 

この結果が示しているのは、「70歳を超えるとスタチンが効かなくなるわけではない」ということです。

 

心血管リスクが高く、本来ならスタチンを始めたい患者さんについて、年齢だけを理由に治療を控える必要はありません。

なお、この試験で使われたアトルバスタチン40mgは、日本で通常使われる用量(10〜20mg)より多めです。

日本人はもともと心筋梗塞の発症率が欧米より低いこともあり、この結果をそのまま日本人に当てはめて同じ用量を使うわけではありません。

それでも、「高齢者でもスタチンによる予防効果が得られる」という点は、日本の患者さんにとっても大切なメッセージです。

「障害のない生存期間」は延びませんでした。

では意味がないのでしょうか。

STAREE試験では、もう一つの主要評価項目として、全死亡、認知症、持続する身体障害を合わせた「障害のない生存」が調べられました。

こちらには、明らかな差が認められませんでした。

しかし、これはスタチンの効果がなかったという意味ではありません。

 

この研究の対象は、平均LDLコレステロールが120mg/dL台で、糖尿病も心血管疾患もない、比較的健康な高齢者です。

そのような方々にスタチンを約6年間投与して、寿命や自立した生活の期間そのものが大きく延びることまで期待するのは現実的ではありません。

 

スタチン治療の主な目的は

心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患を予防することです。

今回、その目的については明確な効果が確認されました。

一方で、スタチンが認知症や身体障害を増やしたという結果でもありません。

大切なのは、「寿命が延びたか」という一点だけではなく、心筋梗塞や脳卒中で救急搬送されたり、入院やカテーテル治療が必要になったりする可能性を減らせたかということです。

 

副作用について

STAREE試験では、アトルバスタチン群でいくつかの有害事象がプラセボ群より多く報告されています。

  • 糖尿病に関連するイベント:4.0%(プラセボ群2.7%)
  • 肝臓・胆道系の検査異常やイベント:3.3%(プラセボ群0.9%)
  • 筋肉や関節の症状:32.0%(プラセボ群29.4%)

 

有害事象を理由に試験を中止した方は7.2%でした。

いずれも頻度としては大きくなく、多くは検査値の変化や軽い症状です。

それでも「スタチンには副作用がない」わけではありません。

だからこそ、後述するように薬の種類や用量を個別に選び、開始後も採血で肝機能や血糖を確認しながら続けることが重要です。

高齢者なら全員スタチン、という意味ではありません

今回の結果は、70歳以上のすべての方が一律にスタチンを飲むべきだという意味ではありません。

スタチンの効果は、もともとの心血管リスクが高い人ほど大きくなります。当院では、次のような要素を総合的に評価します。

  • LDLコレステロールの値
  • 高血圧、喫煙、慢性腎臓病などの有無
  • 頸動脈プラークや冠動脈石灰化
  • 家族性高コレステロール血症
  • 心筋梗塞や脳卒中の家族歴
  • 糖尿病または耐糖能異常
  • 年齢だけでなく、体力、フレイル、生活機能
  • 期待される余命と治療の負担
  • 患者さんが何を重視しているか

スタチンの予防効果が現れるまでには、ある程度の時間が必要です。

LDLコレステロールは内服開始2−3週間で下がります。

それによって防げる病気がどれくらい減り始めるか、という視点です。

そのため、元気に自立しており、今後も長く健康に生活できると考えられる方ほど、予防治療の利益を得やすくなります。

反対に、高度なフレイルがある方、重い病気によって余命が限られている方、多くの薬を服用している方では、治療の負担も含めて個別に判断します。

 

スタチンには種類があります

スタチンは、どれも同じ薬ではありません。

必要なLDLコレステロール低下率、心血管リスク、腎機能、耐糖能、ほかの薬との相互作用などを考慮して選択します。

 

ロスバスタチン(先発品名:クレストール)

少量でもLDLコレステロールを強力に下げられるスタチンです。

心筋梗塞や脳卒中の既往がある方、家族性高コレステロール血症、冠動脈プラークが多い方など、LDLコレステロールをしっかり下げる必要がある場合に有力な選択肢となります。

ただし、重度の腎機能障害では薬の血中濃度が高くなるため、少量から開始し、投与量を制限する必要があります。

「腎臓から排泄されるため腎臓を傷める薬」というわけではありませんが、腎機能が大きく低下している方では慎重な使用が必要です。

 

アトルバスタチン(先発品名:リピトール)

LDLコレステロールを下げる作用が強く、世界的に最も多くの心血管予防データを持つスタチンの一つです。

STAREE試験で使用されたのもアトルバスタチンです。

腎機能による用量調節を通常必要としないため、慢性腎臓病の患者さんにも使いやすいという特徴があります。

一方で、肝臓のCYP3A4という酵素を介して代謝されるため、一部の抗菌薬、抗真菌薬、免疫抑制薬などとの相互作用には注意が必要です。

 

ピタバスタチン(先発品名:リバロ)

日本で開発されたスタチンです。

十分なLDLコレステロール低下作用を持ちながら、薬物相互作用が比較的少ないという特徴があります。

 

スタチン全体としては、血糖値をわずかに上げ、新たな糖尿病発症を軽度増加させる可能性が知られています。

前述のとおり、STAREE試験でもこの傾向は確認されました。

特に、肥満、メタボリックシンドローム、耐糖能異常などを持つ方では注意が必要です。

ピタバスタチンは、糖代謝への影響が比較的小さい可能性が報告されています。

日本人の耐糖能異常例を対象としたJ-PREDICT試験では、生活習慣改善にピタバスタチンを追加したグループで、糖尿病への進展が増加せず、むしろ有意に少なかったと報告されました。

ただし、ピタバスタチンがすべての患者さんで糖尿病を予防する、あるいは他のスタチンより常に優れていると確定したわけではありません。

それでも、糖尿病リスクが高い方にスタチンを開始する際の有力な選択肢になります。

 

「強い薬」か「弱い薬」かだけでは決めません

心血管リスクが非常に高い方では、LDLコレステロールを十分に下げることが最優先です。

一方、糖尿病リスクが高い方や腎機能が低下している方では、薬の種類や用量を慎重に選びます。

また、スタチンを最大量まで増やすことだけが治療ではありません。

必要に応じてエゼチミブなど作用の異なる薬を組み合わせれば、スタチンの投与量を抑えながらLDLコレステロールをさらに下げることもできます。

当院では、単に「一番強いスタチン」を選ぶのではなく、

  • どの程度LDLコレステロールを下げる必要があるか
  • 心筋梗塞・脳卒中の危険性はどの程度か
  • 腎機能に問題がないか
  • 糖尿病になりやすい状態ではないか
  • 肝機能や血糖に変化が出ていないか
  • 筋肉痛などの副作用が起こっていないか
  • ほかの薬との相互作用がないか

を確認しながら治療を調整します。

高齢だから治療しないのではなく、高齢だからこそ丁寧に選ぶ

年齢だけを理由に、必要な予防治療を諦める必要はありません。

70歳、75歳を超えていても、元気に自立しており、心血管リスクが高い方には、スタチンによって心筋梗塞や脳卒中を防げる可能性があります。

一方で、LDLコレステロールの数字だけを見て、すべての方に同じ薬を同じ強さで処方することも適切ではありません。

重要なのは、

「高齢だからスタチンを使わない」ことでも、 「高齢者全員にスタチンを使う」ことでもありません。

その方の心血管リスク、腎機能、耐糖能、体力、生活状況を評価し、予防によって得られる利益が治療の負担を上回るかを考えることです。

戸頃循環器内科クリニックでは、採血結果だけでなく、頸動脈エコー、冠動脈石灰化、血圧、糖代謝、腎機能などを総合的に評価し、一人ひとりに適した脂質管理をご提案しています。

「もう高齢だから治療しても意味がない」と自己判断せず、ご自身にスタチンが必要か、どの薬が適しているかを一緒に考えていきましょう。


参考文献

  • STAREE試験:Atorvastatin, Cardiovascular Events, and Disability-free Survival in Older Adults. N Engl J Med 2026(欧州心臓病学会 ESC Congress 2026にて発表)
  • 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」
  • J-PREDICT試験(日本人耐糖能異常例に対するピタバスタチンの糖尿病発症抑制効果)

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