糖尿病について 検査合併症編
血糖値について
血液中に含まれる糖分、ブドウ糖の濃度を血糖値といいます。
人間が生きていくためには、ブドウ糖がエネルギーとして必要です。
この、血糖値が必要以上に高い状態を高血糖といいます。
それが長く続くのが、糖尿病です。
食事からブドウ糖を摂取し吸収し、全身に循環し体を動かせるようになります。
血糖が必要以上に下がる状態は低血糖ですが、これは生命維持の観点からは非常に危険な状態となるため、血糖を上昇させるホルモンが多く発達しており、低血糖にならないように数種類のホルモンがそれぞれ血糖が下がらないように調整します。
低血糖ではドキドキしたり冷や汗がでて、ホルモンの分泌が促されますが、さらに血糖が低下すると脳の働きも落ちるので意識消失となり得ます。
逆に、高血糖時に血糖を下げて、適切な血糖値に調節するホルモンはたった1種類だけです。
インスリンという膵臓から分泌されるホルモンです。
このインスリンが作用して、血糖が細胞に取り込まれることで、血管内のブドウ糖濃度は低下します。
このインスリンの作用のトラブルが、高血糖、ひいては糖尿病の原因となります。
インスリンが分泌されない、分泌が不十分、しっかり分泌されているが効果が低い、という状態のいずれかでブドウ糖が血管内に留まり濃度が上昇し高血糖、持続すれば糖尿病になります。
持続した高血糖では、全身の血管障害、臓器への悪影響があります。
そのため、糖尿病は慢性の多臓器不全、という言い方をする人もいます。
未治療なら、結果、男女とも平均寿命が短くなりえます。
糖尿病ではない人と比較して、男性で薬10年、女性で15年程度寿命が短くなると言われます。
検診で高血糖の指摘があった方、ご家族に糖尿病の方がいらっしゃる方、糖尿病かどうか気になる方は迷わずご相談ください。
1型糖尿病 と 2型糖尿病 について
1型糖尿病とは、インスリンを作る膵臓(とくにΒ細胞)が何らかの影響により破壊されることが原因です。(自己免疫の異常、ウイルス感染など)
ほぼインスリンの分泌がなくなるの、インスリンの自己注射によりホルモンを外部から補う治療が必要です。
2型糖尿病の方は非常に多いです。
日本人では糖尿病患者さんの95%は2型と言われています。生活習慣の乱れ(過食や偏食、運動不足、ストレス、肥満など)を契機に発症します。
インスリン自体は体内から分泌されていますが、量が足りない、あるいは効果、反応が悪い状態です。
BMI(肥満度)25を超えるかどうかで、インスリン分 泌不全あるいはインスリン抵抗性をざっくり想定します。
二次性糖尿病(他の原因で糖尿病になるタイプ)もあり、ステロイドの長期服用、妊娠中に合併する糖尿病などもあります。
2型糖尿病では初期はほとんど症状がないです。
進行してくると、あるいは1型糖尿病になると症状が出てきます。
尿が増える、喉がやたらに乾く、だるい。
体重がみるみる落ちる、などの症状です。
著明な高血糖になると意識消失あるいは意識障害という症状で重篤な状態になります。
糖尿病性ケトアシドーシスという診断であり、1型糖尿病の方、あるいは2型糖尿病で内服治療中のかたでも起こり得ます。
糖尿病の合併症、特に血管トラブルは2パターン
細小血管トラブルと大血管トラブルです。
細小血管トラブルとは、文字通り細い血管が集積している臓器である眼、腎臓です。糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症という診断になります。
糖の代謝産物が神経へダメージを起こすので、糖尿病性神経障害、という診断で、足の裏の感覚が異常になったり痛みへの感覚が低下してしまいます。
たいてい糖尿病になってから10年程度で細小血管トラブルは起こってくると言われています。
大血管トラブルは文字通り体の中で大きい血管と関わる部位のトラブルです。
代表は心臓(狭心症 心筋梗塞)、脳(脳梗塞)大動脈(瘤や解離)、閉塞性動脈硬化症(足の血管のつまり)などです。
痛ければ、医療機関にかかろう、と思うのは普通です。
糖尿病は特に対処が重要な初期にははっきりした症状がないのが特徴です。
気づきにくいので、知らず知らずのうちに進行している点が怖い部分でもあります。
急性心筋梗塞で救急搬送され、そこで初めて糖尿病であることがわかった、あるいは放置していたらこんなことになった、という事態は回避することが大事です。
他にも、認知症や骨折、歯周病の発症にも関与しています。
膵臓がんや肝臓がんなどのリスクにもなります。
定期的に検診を受けること、高血糖を指摘されたら、一度は医療機関に受診されることをお勧めします。
検査について
血糖測定が重要です。血液検査で血糖値、HbA1c(ヘモグロビン エーワンシー、あるいは単にエーワンシーと呼ぶことが多いです)を測定します。
最近はTIR(Time in Range)という指標の重要性が言われています。
これは、1日を通して、目標血糖値の範囲内にある時間の割合を評価する方法です。
同じHbA1c 7.0mg/dL でも低血糖も高血糖もあるかたもいれば、一定の範囲内で綺麗におさまっている方もいます。
目標血糖範囲を70〜180mg/dLとして 70%の時間帯でこの範囲に血糖が管理できていると、その後のトラブルが減る(特に糖尿病性網膜症)ということが報告されています。
CGMという持続的血糖測定方法により可能になりました。
当院でも積極的にこれを評価していきます。
また、早期の段階では、ぶどう糖負荷試験(OGTT)を行います。
(75gのブドウ糖を服用してもらい、2時間後に血糖を測定し 200mg/dl以上は異常
- コカ・コーラ 350mlは ブドウ糖16g
- カルピスウォーター 350ml はブドウ糖15g
- ポカリスエット 340mlはブドウ糖5.4g
診断基準
1. 早朝空腹時血糖値 126mg/dL以上、あるいは75gOGTT 200mg/dL以上、あるいは随時高血糖 200mg/dL以上
2. HbA1c 6.5%以上(施設間 検査機器によりばらつきあり)
上記が2つとも合致すると糖尿病という診断になります。
どちらかの場合には、糖尿病型、という診断になり経過を見ながら再検査で評価し、結果により糖尿病の診断になります。
治療について
治療の目標は、糖尿病がない人と変わらない寿命とQOLを達成することです。
1型糖尿病は、自己インスリン注射(インスリン療法)です。自然なインスリン分泌に模して、一日数回の注射が必要になります。
2型糖尿病の治療は、とにかく食事療法、運動療法が非常に重要です。
生活習慣で見直す点があるのかどうかを適宜確認します。
食べすぎないことから始めます。物足りない状態で食事を終わらす、と言い換えてもいいです。
食事量は、摂取カロリーで計算します。
規則正しい食事、糖質や脂肪分を抑えて栄養バランスを適正化する、アルコールは少量まで、など気をつける点はあります。
毎日のことなので気長に調整していくことが必要です。
運動療法は、ブドウ糖の消費のみならず、筋力を鍛えることでインスリンの反応が良くなります。(インスリン抵抗性の改善)
少し息が切れる程度の強さ、で1回30分、週4−5回、を目標にする。
運動量はそれで十分です。
散歩をお勧めしますが、水中歩行、自転車などでも代用可能です。
大切なのは
- 定期的にできること
- 手間が少ないこと
- 思いついたらいつでもできること
- なるべくお金がかからないようにすること
- 飽きないよう工夫
- 雨の日にはストレッチや体操などで代用していくこと
- 膝や腰に痛みがあるようならお休みすること
- 習慣がなければ10分程度から初めて5分くらいずつ時間を伸ばすくらいでもいいこと
- 時間帯には特に決まりもなく、朝でも昼でも夜でも可
などいろいろコツはあります。
禁煙やアルコールを控える、睡眠時間の確保、ストレス発散など注意点もあります。
そのうえで、そのうえで、内服治療を考慮します。
様々な血糖降下薬・血糖上昇抑制薬があります。
内服薬で管理が難しいときには、インスリン注射治療も検討されます。
内服薬の選択について
内服薬は、肥満型かどうか、心臓や動脈硬化の状態、腎臓の機能や年齢など様々な背景を考慮し選択されます。
どの薬が良い、というより、自分はどの薬で治療をするのが良いのか、という観点が重要です。
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