三尖弁閉鎖不全症(TR)
三尖弁閉鎖不全症(TR:Tricuspid Regurgitation)は、「三尖弁がしっかり閉じなくなってしまう病気」です。
三尖弁は、右心房と右心室の間にあり、右心室が収縮して血液を肺へ送り出すときに、血液が右心房へ逆戻りしないように閉じる“弁”の役割を担っています。
この弁が完全に閉じなくなると、右心室から肺へ送り出されるはずの血液の一部が、右心房へ逆流してしまいます。
三尖弁逆流症とも呼ばれます。
逆流によって右心房・右心室に負担がかかり、進行すると全身から心臓へ戻る血液の流れが滞ります。
むくみや腹水などのうっ血の症状につながります。
主な原因
三尖弁閉鎖不全症は、弁そのものの異常による「一次性」
他の心臓の病気に伴って弁が閉じにくくなる「二次性(機能性)」
に分けられます。
実際には二次性が大部分(8割以上)を占めるのが特徴です。
二次性(他の心臓の病気に伴うタイプ)
- 右心室・弁輪の拡大:肺高血圧症や左心系の弁膜症・心不全などにより右心室が拡大し、弁の輪(弁輪)が広がって閉じ切らなくなるもの。
- 心房細動:長く続く心房細動により右心房・弁輪が拡大するもの。
- ペースメーカー等のリード:留置したリードが弁の動きに影響するもの。
一次性(弁そのものに原因があるタイプ)
- 感染性心内膜炎による弁の破壊
- リウマチ性の弁の変形
- 先天性疾患(エプスタイン奇形など)
- 弁の変性(粘液腫様変性)
有病率
三尖弁閉鎖不全症は、軽度のものを含めると珍しくありません。
加齢や心房細動、他の弁膜症・心不全に伴って増加します。
多くは軽度で無症状のまま経過します。
中等度でも問題ことがほとんどです。
重度になると右心系のうっ血が問題となります。
健康診断や他の心臓の検査の際に、心エコーで偶然発見されることも少なくありません。
心臓への影響
逆流した血液は右心房へ戻り、右心房・右心室に容量負荷をかけます。
しばらくは右心室がこの負担に適応しようとして拡大しますが、代償には限界があり、負担が続くと右心室の機能が低下し、右心不全に至ります。
右心系のうっ血が進むと、全身の静脈に血液がたまり、足のむくみ、腹部の張り、腹水、肝臓の腫れといった症状が現れます。
また、右房拡大により心房細動を合併しやすくなります。
三尖弁閉鎖不全症は、初期には比較的よく耐えられます。
ただし、
進行すると右心室の機能が戻りにくくなるため、適切な時期の評価が重要とされています。
主な症状
三尖弁閉鎖不全症は、軽度のうちは無症状のことが多く、症状が徐々に出現するのが特徴です。
進行すると、右心系のうっ血による次のような症状が現れます。
- 足のむくみ
- お腹の張り・腹部膨満、腹水
- 疲れやすさ・だるさ、食欲低下
- 首の血管の拍動・張り(頸静脈の怒張)
- 動悸(心房細動を合併すると起こりやすくなります)
診断方法
問診・診察に加え、次のような検査で診断と重症度評価を行います。
- 聴診:収縮期の心雑音(息を吸うと強くなるのが特徴)の確認。
- 心エコー検査:診断の中心となる検査です。
逆流の有無・程度や原因、右心房・右心室の大きさや動き、肺高血圧の有無を評価します。
- 心電図:心房細動などの不整脈や右心系への負担の評価。
- 胸部X線検査:心拡大やうっ血の評価。
- 心臓MRI・経食道心エコー:右心室の機能や弁の状態をより詳細に評価したい場合。
治療法
重症度や症状、原因、右心室の状態に応じて治療方針を決定します。
二次性が多いため、背景にある心臓の病気の治療が特に重要です。
- 内服薬・経過観察:むくみや腹水などのうっ血に対しては利尿薬などで症状をやわらげます。
原因となる病気(肺高血圧・左心系疾患・心房細動など)の治療を行いながら、定期的な心エコー検査で経過を観察します。
- 外科手術(弁形成術・弁置換術):症状が続く場合や、右心室の拡大・機能低下が進行する場合に検討します。
弁輪を縫い縮める弁形成術(弁輪形成術)が優先され、難しい場合は人工弁による弁置換術を行います。
左心系の弁膜症の手術に併せて行われることもあります。
三尖弁閉鎖不全症のためだけに手術が必要になることは非常に稀です。
- カテーテル治療(TTVR/経皮的治療):脚の付け根の血管からカテーテルを用いて逆流を減らす低侵襲治療で、外科手術が難しい患者さんに対する新しい選択肢として発展してきています。
適応の判断には専門的な評価が必要です。
早期発見・定期的な検査が大切です
三尖弁閉鎖不全症は、無症状のまま静かに進行し、気づいたときには右心室の負担が進んでいることがあります。
だからこそ、むくみや腹部の張り、息切れなどの気になる症状がある方や、心雑音・不整脈を指摘された方は、早めに心エコー検査を受けることが大切です。
戸頃循環器内科クリニックでは、毎日心エコー検査を実施し、定期的な経過観察と早期の治療判断を行っています。
気になる症状のある方はお気軽にご相談ください。
